私のおさげをほどかないで!
 この()に及んでそっと確認するように名前を呼んだら「ああ、俺だよ」って至極当たり前の答えを、面倒がらずにちゃんと返してくれて。
 そう言う、包み込むような優しさも含めて、目の前の男性は奏芽さんなのだと私はやっと自分に言い聞かせることができた。

「どう、しちゃったん……ですか?」

 そこに至ってやっと、ずっと胸の奥でつっかえたままだった言葉を奏芽さんに投げかけることができた。

「ほら、週末のお願い事。金髪長髪(あのまま)の格好で行くわけにゃいかねぇかなって」

 週末の――。

 奏芽(かなめ)さんは私に「お願い事」と称して、今週末のうちの母の都合を聞いて欲しいと言ったの。

 アパートを引き払って、私を正式に自分の(ところ)に住まわせるならば、親御さんに挨拶なしってわけにはいかねぇだろ?って。

 お母さんには先日電話をして、戸惑われつつも奏芽さんとの訪問について、承諾の意を取り付けている。


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