私のおさげをほどかないで!
 実は私、母親にあの事件のことをまだ話せていないの。
 それも含めてちゃんと話さないと、なぜアパートを引き払うような真似までして奏芽さんと一緒に住もうとしているのか……到底理解してもらえないだろうし、そこを伝えないと先には進めないよね、とも思ってて。

 よしんばそれを話しても、〝こんな融通のきかない私〟を作り上げた四角四面で真面目なお母さんのことだ。
 結婚もしていないのにそんなこと許されるわけないでしょう!と猛反対されないとも思えなくて。

 私、正直うまくお母さんを納得させられる自信がない……。

 あの時のことを思い出すのはまだすごく辛いし、出来ればお母さんにだけは知られたくないって気持ちもあるから尚更。

 精神的な理由から、ひとりで電車や新幹線に乗れなかったのはもちろんだけど、帰省後のそう言う諸々(もろもろ)の杞憂もあって、(この)休みに実家に戻れないでいた私なんだけど。

 奏芽さんはそんな私を気遣ってくださったんだとも思うの。

 でも――。
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