私のおさげをほどかないで!
凜子(りんこ)は実家に泊まってもいいんだぞ?」

 ギリギリまで奏芽(かなめ)さんにそう言われたけれど、私は彼と離れたくなくて、「一緒にホテルがいいです」と言い張って。

 移動方法にしてもそうだったけれど、今回私は奏芽さんにわがままばかり言っています。
 なのに奏芽さんは結局私の意思を尊重してくださるの。

「わがままで……すみません」

 もしかしたら奏芽さん、今夜ぐらいは私から離れてゆっくりしたかったのかもしれない。
 ホテルの部屋に入ってすぐ、恐る恐るそう言ったら「俺も出来た人間じゃないからな。本当に嫌なら突っぱねてるよ」って頭を軽くぽんぽんと撫でられた。

 そのあとギュッと抱きしめられて、
「それに――正直な話、俺も凜子と離れたくなかったから……」
 一応大人の余裕を見せようと、実家に戻ってもって言ったけど、本心は違ったからなって私の顔を胸に押し付けたまま言うの。

 私はそれを言う奏芽さんのお顔が見たいのに、後頭部をギュッと押さえられていて上向かせてもらえなくて。

 きっと恥ずかしくて照れていらっしゃるんだろうなと思う。奏芽さんは気付いていないのかもしれないけれど、胸に押し当てられているから私、奏芽さんの心臓がドキドキいってるの、知ってるの。

「奏芽さん、大好きです……」
 小さくつぶやくように言ったら、「それ、俺のセリフな?」って、抑えめな低音ボイスでささやくように返された。
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