私のおさげをほどかないで!
 緊張していると、車の中で私を抱きしめてくれた奏芽(かなめ)さんだったけれど、今こうやって自己紹介をなさった彼を見ると、全然物怖じしているようには思えなくて。

 ピンと伸ばされた背筋と、真っ直ぐにお母さんを見つめる視線が、本当にかっこいいなって思ったの。

 奏芽さんの言葉に、お母さんが「ってことは……鳥飼(とりかい)さんは小児科医でいらっしゃるの?」と問いかけて。

 食いつくの、職業(そこ)!?

 奏芽さんが「はい」とうなずくと、心底驚いたように私を見るの。

「小児科の先生がうちの凜子(りんこ)とどうやって――?」

 ああ、そう言うことか。
 最後までは言われなかったけれど、馴れ初めを聞かれているんだって思った。

 確かに内科の先生や外科のお医者様ならまだしも、私もさすがに小児科に通う年齢ではない。

 実際は鳥飼(とりかい)小児科医院には大人の患者さんも結構いらっしゃるのだけれど……それは例えばお子さんを診ていただくついでに親御さんが、とか……幼い頃に通っていた延長で、とか……そういう感じで。

 新規での大人の患者さんというのはほとんどいない。

 お母さんが不思議に思うのも無理はないなって思ったの。
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