私のおさげをほどかないで!
***

「ね、凜子(りんこ)。お醤油を切らしてしまってるみたいなんだけど、すぐそこのスーパーで買ってきてもらえない?」

 戸棚を開けたところで、お醤油の残りがわずかなことに気がついたらしいお母さんからそんな声が掛かって。

「分かった」

 言って、何の気無しに玄関まで向かったところで身体が震えて動けなくなる。

 どうしよう。
 ひとりで買い物とか……怖い。

 でもこのまま玄関先(ここ)で身動きが取れないままでいたら、きっとお母さんに変に思われちゃう。

 焦る気持ちのせいか、スニーカーの靴ひもがうまく結べなくて。嘲笑うみたいに指先をひもが滑るさまに、ますます気持ちばかりが急いてしまう。

 と、靴を見つめる私の上にふと影がさして。

お母(むかい)さん、俺も凜子さんと一緒に買い物行ってきます。あ、車も出しますんで、要るものおっしゃっていただけたら一気に買いそろえて来ますよ?」

 奏芽(かなめ)さんが、お母さんに声を掛けながら、大丈夫だっていうみたいに、私の肩に手をのせた。
< 340 / 632 >

この作品をシェア

pagetop