私のおさげをほどかないで!
 ふと見ると、玄関先にしゃがみこんで靴ひもを結ぼうと頑張っているらしい凜子(りんこ)の肩が、小さく震えているのが分かって。

 やはり様子を見にきて正解だったと思ったんだ。

 こんな姿をお袋さんに見られたら、変に思われちまう。

 凜子は母親にあの事件のことをなるべく告げずにいたいと俺に言ったんだ。
 お母さんに心配かけたくないから、と。
 俺はそんな凜子の優しさを、出来る限り(つらぬ)き通させてやりたい。


 俺が一緒に買い物に行くと声をかけたら、凜子が泣きそうな顔をして俺を見上げてきて、俺はここが凜子の実家だというのも忘れて危うく彼女を抱きしめそうになった。

 なんとか肩に手を載せるに留めておいたけれど、危ないところだったと自分でも思う。
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