私のおさげをほどかないで!
「俺さぁ、この店には最近もっぱら向井ちゃんに会いに来てるわけ。なのに何で他の()にレジ頼まんとならんのよ? それこそ時間の無駄遣いだろ」

 言って、私の手首をギュッと握ってくる。

「はっ、離してっ……!」

 いきなりの暴挙に慌てて手を引こうとしたら、グイッと強く引っ張られて距離を詰められる。
 そのまま鼻先が触れ合いそうなくらいの至近距離で顔を見下ろされた。

 な、何、これっ。……近いっ。
 あまりに間近過ぎて、思わず息を止めたからか、何だか心臓(むね)のあたりが痛い……。
 私、男性への耐性低いんだから無闇に抱き寄せたりしないでよ……。
 心臓止まったら責任とってくれるの?

「俺さ、キミが思ってるよりずっと……向井ちゃんのこと気に入ってると思うぜ? ほら。世の中にはさ、一目惚れってのがあんだろ。一目見た瞬間、あー、コイツ、自分のモンにしてぇなぁ、みたいなの。何か俺もよく分んねぇけど、あの日向井ちゃん見た瞬間、ビビッて来たんだよ。だからわざわざあん時――」

 そこまで言って私を掴んだ手にほんの少し力を込めると、
「要りもしないあれこれカゴにてんこ盛りにしてキミと少しでも長く話せる機会設けたっちゅーのに。この鈍感娘、全然気付かねぇんだもん。そりゃ、連れとも険悪になんだろ」

 そこで、何かを思い出したようにニヤリと笑うと、
「そういう鈍感なところも、この、すぐそばに立った時の身長差も。なんか()()()といるみたいで安心するっちゅーか……。とにかく嬉しくなんだよ」

 え? ()()()
 それって……誰かと置き換えて私を見てるってこと?
 何、それ。わけ分かんない!
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