私のおさげをほどかないで!
***

 木立に覆われて、(てい)よく木陰になっている場所に駐車されていた車内は、思ったほど暑くなっていなくて。
 奏芽(かなめ)さんがエンジンをかけると、すぐに冷たい空気に充たされ始める。

「風、冷たすぎね?」
 まるでさっきのキスなんて忘れたみたいに、運転席の奏芽さんからいつも通りの様子でそう問いかけられて、私は慌てて首を振る。
「暑かったり寒かったりしたらすぐ言えよ?」
 とか。奏芽さん、本当長男気質だなぁって思う。

 妹さん相手でもこんななのかな。
 ふと思って、助手席からそっと窺い見るようにハンドルを握る奏芽さんを盗み見る。

 金髪が陽光を受けてキラキラ輝いて見えて、なんて整った顔をしてる人なんだろうって見惚れてしまった。
 と、「そんなに見つめられたら、どこにも行かずに家に連れ帰りたくなんだけど?」って奏芽さんが笑うの。
 私は彼に目を奪われていたことに気付かれていたと知って、にわかに慌ててしまう。

「ご、ごめ、なさっ」
 小さくしどろもどろに謝ったら、「俺だって凜子の顔見たいのに不公平だろ」とか。
 どこまで本気なんだろう。

「奏芽さんのバカ……」

 うつむいて小さく吐息混じりに漏らしたら、「聞こえてますよ、凜子さん」って笑われてしまった。

 か、……奏芽さんの、地獄耳!
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