私のおさげをほどかないで!
***

「あ、あの……奏芽(かなめ)さん」

 お風呂上がり。

 ほこほこと湯気の立ち昇る身体のまま、控えめに脱衣所からリビングに顔を覗ける。

 タオルドライしてシアバター100%の保湿クリームでケアした身体を、シンプルな無地のパジャマで包んで。



「おいで」

 そんな私に、いつものように奏芽さんが、リビングでドライヤー片手にソファをポンポンと叩く。

 ホテルで、奏芽さんに髪を下ろしている姿を見せて以来、お風呂上がり後は、こんな風に髪を下ろしたまま出てくるようになった。

 そうして、奏芽さんはそれが当然の権利だとでも言うように「俺が凜子(りんこ)の髪、乾かしてやるな」と言って、連日タオルドライ後の髪にドライヤーを当ててくださるのが日課になっている。

 ばかりか、先日私の長い髪が(いた)まないようにと、とあるメーカーの高価なドライヤーに買い替えて下さって。
「ドライヤー、まだ使えるのにもったいないですっ」
 と恐縮した私に、「俺も使うからいいんだよ。俺の頭も(いたわ)んねぇと禿げたら大変だろ?」ってニヤリと笑うの。

 でも、その時の「俺も〝使う〟」からして、すでにご自分に対して、ではなく私に対して、だったんじゃないかしら、と思い知らされていたりします。
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