私のおさげをほどかないで!
「そのつもりなんですけど……うまく入れられるか不安で」

 奏芽(かなめ)さんの言葉に眉根を寄せたら、

「俺が入れようか? ――凜子(りんこ)が嫌じゃなければ、だけど」

 母親はとかく子供を人手に渡すのを嫌がるもんだからな、と柔らかく頭を撫でられた私は、すがるような目で奏芽さんを見上げた。


「――お得意、ですか?」

 よくよく考えてみたら、奏芽さんは小児科医だ。
 案外新生児の扱いにも手慣れていらっしゃるのかもしれない。

 そう思って奏芽さんを見つめたら、「和音(かずね)も入れたりしてたしな。多分凜子が思ってる以上に得意だぞ?」ってニヤリとされた。

 その笑顔に何だかホッとして、私は肩の力を抜く。


「あの……母親のくせに情けないんですけど……実は入れるの怖かったんです」

 素直にそう心情を吐露したら、「バーカ。拓斗(タクト)は俺たち2人の息子なんだから1人で気負い過ぎんな」って抱き寄せられた。

 途端奏芽さんの柑橘系の香りにふわりと包まれて、それだけで肩の力がフッと抜ける。
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