私のおさげをほどかないで!
 こんな風に、彼は私が少女から女性に成長していく様を、まるで家族の一員みたいな立ち位置から見守ってくれている。
 そんな彼の思いがのぶちゃんの一挙手一投足から嫌というほど感じられて。

 私はそのことが切なくて悲しくて、いつも胸をギュッと押し潰されたみたいな痛みに包まれるの。

 でも今日はそんなに辛く感じなくて……おや?と思う。

 それよりも大きいのは、このままのぶちゃんと2人きりでお出かけしてしまってもいいのかな?っていう戸惑いで。

「ん? どうした? 行くよ?」
 のぶちゃんがこちらを振り返って手を差し伸べてくる。

 そういえば一緒に歩く時、私はいつも何も思わずに彼のその手を握り返していた。
 でも――。

 何となくその手を取るのが躊躇(ためら)わられて、いそいそと小走りでのぶちゃんの横に並ぶと、まるで手を離せないみたいに両方の手でリュックの肩紐を掴んだ。

「お、(りん)ちゃんもとうとうお兄ちゃん離れか〜。寂しいな」

 私の微妙な変化を、のぶちゃんはまるで微笑ましいものを見るみたいに何の抵抗もなく受け入れてしまう。
 それがほんの少し寂しく感じられたのは確かだけれど、ホッとしたのも事実で。

 のぶちゃんの案内で、アパート下に停められた、彼の愛車ノート――コンパクトカーの助手席に乗り込んだ。

 もう、後戻りは出来ない……。
< 65 / 632 >

この作品をシェア

pagetop