私のおさげをほどかないで!
***

 結局回転寿司店ではカウンターにのぶちゃんと横並びで座ったので、持ってきた沢山の勉強道具を広げることは出来なかった。
 のぶちゃんには、リュックの中にそんなものが入っていることは話していない。

「――で、どんなこと聞きたい?」
 のぶちゃんが質問してくることにポツポツと返しては、間で単位の取り方や、参考になりそうな資料(テキスト)などを教えてもらった。

「ところで(りん)ちゃんさ、恋とか……そっちの方はどうなの?」

 話が途切れた時、何でもないみたいにのぶちゃんに恋話(こいばな)の水を向けられて、ドキッとする。

「あっ、あるわけ……ないよ」
 答えながら、ふと最低男の顔が浮かんで、ないない、絶対ない!と打ち消した。

「なっ、何で急にそんなこと……」

 のぶちゃん、今までそんなこと聞いてきたことないのに。

 不思議に思ってのぶちゃんを見つめたら、「いや、何かちょっと見ない間に随分()()()をするようになったなって思って……心配になって」
 悪い男に引っかかってたらさ、僕が全力で守ってあげないといけないし、と付け加えてから、ハッとしたように
「あ、気持ち悪いこと言ってごめんね。僕にこういうこと言われるの、凜ちゃん好きじゃないのにね」
 って、慌てたようにお茶を飲む。

「き、気持ち悪いとか……ない、よ? 強いて言うなら.……のぶちゃんがそんなこと言うの意外で……ちょっとビックリしただけ」

 今までこんな風に慌てたのぶちゃんを見たことがなくて、私は少し緊張が緩んだ。

 あ。緊張――。

 そう、気がつかなかったけれど、私、のぶちゃんと一緒にいて、緊張してたんだ。

 だってこれ、デートなんじゃないかな?って、心の片隅で思って、何となくソワソワしてしまったから。
< 68 / 632 >

この作品をシェア

pagetop