私のおさげをほどかないで!
 今までのぶちゃんと2人きりで会ったのは、実家で勉強をみてもらった時とか、お引っ越しの手伝いに来てもらった時くらい。
 うちは母子家庭で、お母さんが忙しかったから……その寂しさを埋めるようにのぶちゃんが寄り添ってくれていた。

 でも、今日はそうじゃない。

 私、一人暮らしを始めて2ヶ月以上経ったし、何よりいつまでも小さな女の子じゃないから。
 お母さんが傍にいなくても、平気になった。
 だからかな。今までみたいに気安くのぶちゃんと会う理由を見失ってしまったんだと思う。
 なのに無理に用件をつけて2人きりになってしまったから……だからきっと落ち着かないんだ。

 そこまで考えて、「あ、だからか」ってストンと落ちたの。

 だからのぶちゃんは私がこっちに来てから、連絡してきてくれなかったんだ、って。

 お兄ちゃんののぶちゃんを必要としていない大人な私には、のぶちゃんもきっと用なんてないんだ。
 なのに私から連絡したりしたから……。
 すごく迷惑をかけてしまったんじゃないかな。

 不意に不安になってうつむいて黙り込んだら、のぶちゃんが言うの。

「じゃあさ……その……。例えば僕が、……(りん)ちゃんのこと、妹として見られなくなって戸惑ってるって言ったら……どう……する?」

 一瞬のぶちゃんが何を言っているのか分からなくて、私は思わず彼の方を見つめる。

「のぶ、ちゃん?」
 私のことを妹として見られないってどういう、意味?

 何か言わないとって口を開こうとしたら、「あー、えっと……と、とりあえずお会計済ませてしまおうか。凜ちゃんが……もう……その、お、お腹一杯だったら、って前提なんだけど」って被せてきて。

「あ、うん。私はもう……」

 お腹いっぱいだよ、と言うニュアンスを込めた私の言葉に、のぶちゃんがホッとしたように席前のタッチパネルを操作して「お会計」ボタンを押した。
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