私のおさげをほどかないで!
「離してください、お願いします!」

 この際声が棒読みになったのは大目に見てもらわないと。

 吐き出すように言った言葉に、眼前の男がククッと喉を鳴らした。

「誰にお願いしてんのか、ちゃんと分かるように名前も言ってくんなきゃ」

 言われて、私は正直言って溜め息をつきまくりたい衝動に駆られた。

 でもそれもこの男を喜ばせるだけだと知っているから、落とすのはひとつだけに留めておこうと決意する。
 それでも我慢できなくて、はぁーーーっ!とひとつ盛大な吐息を落とすと、「離してください、お願いします。鳥飼(とりかい)……奏芽(かなめ)さん」

 先ほどよりもさらに棒読み。まるでお経みたいに言ってやったの。

「んー。どうしようかなぁ。今日こそは俺、キミの下の名前教えてもらいたいんだけど? そうしたらすぐにでも離してあげようじゃないか」

 って約束が違いますよね!?

「《《おじさん》》、約束が違います、おボケになられたんですか?」

 腹立たしくてわざとそう言ったら「わー、向井ちゃん、今日もとっても辛辣(しんらつ)っ♥ 《《お兄さん》》痺れちゃーう♥」ってクネクネされた。

 気持ち悪いのでやめてもらっていいですか?

 私がそういう風にされるのが嫌いだと知っていて、わざとやっているのが分かるのがまた腹立たしい。
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