私のおさげをほどかないで!
***

「――でね……さっきの話の続き、なんだ……けど」

 駐車場に停めた車に近付いてロックを解除する前に、のぶちゃんが私のすぐ背後で立ち止まって、ポツン……とつぶやく。

 その声に振り返った私は、助手席側のドアを背にしたまま、小首を傾げてのぶちゃんを見上げた。

 のぶちゃんと私の身長差は15センチぐらい。
 間近に立たれても、あの男みたいに思い切り見上げなくて済む。
 この身長差が心地いいと思って()()のをふと思い出して、その感想が過去形なことに今更違和感を感じてしまう。

「僕さ、どうして実家から離れて県外に出たと思う?」

 じっと目を覗きこまれるように言われて、私は戸惑った。
「……えっと……い、行きたい学校が遠方にしかなかったから……その流れで?」
 それが的外れなことはのぶちゃんの表情から一目瞭然で。

「違うよ。大学は確かにそうだけど……就職は……(りん)ちゃんのことを意識するようになったから、だよ」

 私が高校生になった辺りから、それは始まっていたのだとのぶちゃんが言って。
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