私のおさげをほどかないで!
***


 木曜(今日)の朝。
 まるであの最低男を避けまくっていた天罰が下ったみたいに、突然私の前に鳥飼さんが姿を現した。

 しかも、さも何事もなかったみたいに
向井(むっかい)ちゃーん!」
 って呼びかけられた瞬間、私がどんなに嫌な気持ちになったかなんて、あの人には多分絶対分からない。

 こっちはこんなに色々思い悩んでいるのに、何でそんな“いつも通り”なの?

 きっと彼にとっては、娘がいることが私にバレたのなんて、大した問題じゃないんだ。

 そう思ったら悔しくてしんどくて。

 思い切り拒絶しまくっても軽いノリでヒラリとかわして(ひる)まない彼に、ああ、やっぱりナンパ慣れしてるのねって思い知らされた私は、ますますこれ以上彼に関わりたくないって思ったの。

 なのに――。


 いとも簡単に私の下の名前をゲットして、知ってすぐに当たり前みたいに呼び捨てするようになって。
 そんな馴れ馴れしい彼と話しているうちに、私も彼のことを「鳥飼(とりかい)さん」ではなく「奏芽(かなめ)さん」って呼んであげたい気持ちにさせられていて。

 オマケに言葉を濁して誤魔化したのに、あれ以来のぶちゃんと会えていないこともエスパー並みに見抜かれてしまった。

 何なのこれ。
 この人、魔法使いか何かなの!?

 私はソワソワする気持ちを抑えながら、すぐ隣にいる奏芽さんをチラ見した。


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