ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
あなたには会いたくなかった
【一、あなたには会いたくなかった】


 服飾デザイナーとして働く職場に、保育園から連絡が入ったのは今から三十分前。

 園の駐輪場に停めていた子供乗せ電動自転車に戻り、二歳三ヶ月になる息子の蒼斗(あおと)を前に設置したチャイルドシートに座らせる。

『蒼斗くんの手のひらがすごく熱くて、びっくりして測ったら三十八度もあったんです』

 担任の先生はたしかにそう言っていたのに、念のため職場から持ってきた体温計で測ってみたら、液晶画面に表示された数字は三十九度三分。

「苦しいね。蒼斗、ごめんね」

 蒼斗は私を見上げ、ふにゃっと可愛らしい笑みを浮かべる。

 機嫌がいいのが救いだ。

 七時過ぎに熱を測ったときは三十六度九分だった。たった三時間でこんなにも熱が上がるなんて、なにかよくないウイルスに感染しているのではないかと不安が胸に広がる。

 早く布団で休ませてあげたいけれど、病院へ連れていくべきだよね。蒼斗が高熱を出すのは珍しいし。

「もうちょっとだけ頑張ってね」

 小さな頭を優しく撫でると、「あいっ」と可愛い声が返ってきた。思わずクスリと笑ってしまう。どんなときでも息子は私の癒しだ。

 サドルに跨りハンドルを握ると、ここから一番近い病院へと自転車を走らせた。
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