ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「ママ、ないよ」

 蒼斗は眉根を下げて私の方へ紙パックを突きつける。

 ふにふにとしたやわらかい指を紙パックから優しく外し、中身を確認しようと横に振る。

「うん、入ってないね」

「もう飲んだのか。喉が渇いていたんだな」

 蒼斗は話しかけられていることに気づいているのかいないのか、名残惜しげに空の紙パックに視線を走らせている。

 こうやって見ると子供が苦手そうには感じないけれど、アメリカで過ごしているうちに大丈夫になったのかな。

 交際中、蒼さんが知人との電話で『子供は苦手』と漏らしていたのを偶然耳にしている。

 それとももう結婚していて子供がいたりする?

 切ない感情を霧散させようと、ペットボトルに口をつけてごくごくと液体をお腹に流し込んだ。

「蒼斗くんは何歳?」

 とんでもない質問に目を見開いて横を向くと、蒼さんは腰を折り曲げて蒼斗と目線を合わせていた。

 問われた蒼斗は見ず知らずの男性に間近で声をかけられたからか、緊張した面持ちで指を一本立てる。

 二歳になる前からピースサインの練習を初め、調子がいい日は上手にできるのだが、今みたいに指を一本しか伸ばせない日もある。
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