ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「手間をかけるかわりに、朝は俺が作る」

「蒼さんが?」

「俺は朝が早いんだ。夜は厳しいけど朝ならだいたい家にいるし」

 多忙な彼に朝食を作らせるなんて、そんなのうなずけるわけがない。

「ダメだよ。蒼さんは少しでも睡眠を取って身体を休めないといけない」

「昔からショートスリーパーなんだ。みちるも知っているだろ」

 それは昔、聞いたけれど……。

「ママ、あっち」

 寝室で遊ぶのに飽きた蒼斗がベッドから下り、私の手を掴んでドアを指差す。

「よしっ。次はリビングに行くか」

 蒼斗はパッと目を輝かせて蒼さんに駆け寄り、太腿に腕を巻きつけて「あっち、いこ」と催促をした。

 蒼斗が自分から他人に接触するなんて滅多にない。心を許している姿にほっこりして、これならやっていけそうだと胸を撫で下ろした。

 リビングに入ると広々とした空間に興奮した蒼斗は、水を得た魚のようにフローリングで走り出す。

「危ないよっ」

 注意しても、なにかに夢中になっている子供の耳に大人の声は届かない。

 こういう日に限って滑り止めのついていない靴下を履いており、床の上をサアーッと滑った蒼斗がバランスを崩して後傾になった。

 きゃっ、と声にならない悲鳴を上げたのだが、すんでのところで蒼さんが蒼斗を抱き留めた。
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