ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「いっぱい歩いたもんな。頑張ったな」

 軽々と持ち上げて左手で蒼斗を支えたあと、数歩うしろにいた私に右手を伸ばした。

「みちるも」

「えっ……」

 動揺して動けずにいたら、蒼さんの右手が私の手をさらう。

 記憶の彼方に押しやられていた彼の高い体温が伝わり、心までじわりと温かくなるようだった。

 大きいこの手で、いったいどれほどの人々を救ってきたのかと考えると胸がきゅうっと締めつけられる。

 私はやっぱり、医師である蒼さんが好きなのだと再認識した瞬間だった。

 正午を過ぎた空からはまだまだぎらついた陽射しが降り注ぐ。

 互いの手のひらに滲んだ汗さえも尊く感じるのは、蒼さんが愛おしくて、私のすべてが彼を求めているからだ。

 マンションに戻る頃には十四時を回っていた。蒼斗は家まであと少しというところで眠ってしまい、蒼さんが抱っこをしてベッドまで運んでも目を覚まさなかった。

「蒼さんもう行かなくちゃいけない?」

「どうかしたか?」

 このふたりきりの時間に蒼斗について話したい。
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