ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 莉々沙先生と結婚するつもりなら、最初から彼女だけを大切にするはずだ。

 しかしここで反論したら、莉々沙先生を刺激してひどい言葉を投げつけられる可能性がある。

 先ほどから蒼斗は目を真ん丸にして、私たちの顔を交互に眺めている。よからぬ雰囲気だというのは察しているはずだ。

 どう切り抜けようかと考えあぐねていたら、カランッとなにかが地面に転がり落ちた音が響いた。

「すみません」

 私たちの元へ転がった万年筆を追いかけながら、長身の男性が頭を下げる。

「黒崎先生」

 莉々沙先生が口にした名前に、ハッとして男性をまじまじと見つめる。

「莉々沙先生。こんなところでどうしたんですか?」

「……いえ、別に。もう戻るところです」

 硬い声で言って、莉々沙先生は「失礼しますね」と何事もなかったかのように立ち去った。

 話は終わっていないはずだし、このまま留まってくれていたら蒼さんを交えて話ができたのに。

 複雑な心境で私たちの空気を切り裂いた男性を見上げる。
< 132 / 193 >

この作品をシェア

pagetop