ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「たまたま会って挨拶をしていただけだ」

 クックッと喉を鳴らしている黒崎さんに対し、蒼さんは眉をひそめている。

「お互い時間がないだろう。続きはまた今度」

 軽やかに手を上げて、黒崎さんはスタスタと駐車場へ向かっていった。

 突然現れてすぐに消えてしまう、風のような人だと思った。

「とうしゃん!」

 蒼斗は私の太腿に座ったまま蒼さんへと両手を広げる。憂鬱そうな面持ちから一変、蒼さんは目を弓なりに細めて小さな身体を持ち上げた。

 緊張の糸が切れたのか、読解不可能な宇宙語で一生懸命蒼さんに語りかけている。

「そうかそうか」

 蒼さんが相槌を打つと、蒼斗は満足そうに分厚い胸に頬を擦り寄せた。

「遅くなってすまない。大丈夫だったか?」

 眉根を下げながら問われ、複雑な胸中は隠して笑顔を作る。

「大丈夫だよ。蒼さんこそ仕事は?」

「昼休憩だ」

「それ大丈夫じゃない。すぐ無理をするんだから」

 不服さを露わにしたら蒼さんは口元を緩める。
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