ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 溝口という男と初めて接触した数日後、彼は常盤総合病院までやってきた。

 あらかた、みちるのマンションから俺が出てくるまで待機し、跡をつけて素性を調べ上げたのだと推測する。

『金森みちるさんから、借金についてうかがっておりませんか?』

 不敵な笑みを浮かべた溝口は、駐車場へ向かう途中の俺を引き留めて切り込んできた。

『みちるさんと大槻さんが、三年前に交際していたのを承知の上で申し上げております』

 一歩うしろをついてくる溝口に目をやると、反応があったことで手応えを感じたのか笑みを一層深くした。

『大槻さんは経済力があるようですし、みちるさんにも、あなたに相談をしてみてはどうかと尋ねたのですが』

 さすがに聞き捨てならなかった。

 ピタリと足を止めて、睨み潰せたらどんなにいいかと思いながら、忌々しいものを見るような眼差しを送る。

『残念ながら別れてしまったようですね。でも現在は復縁なさっているとお見受けしました』

 この男に答える義理はない。しつこいハイエナのような溝口とはそれ以降視線を合わせず、運転席に乗り込んで車を発進させる。

 視界の隅にお辞儀をする姿が映り込み、舌打ちをしたくなる衝動に駆られた。

 溝口の行動が、みちるが俺と別れる選択をした後押しとなっていたら……。

 腹の底から苛立ちが沸き起こり、ハンドルを握る両手に力が入った。

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