ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 三年前まで毎日のように訪れていた常盤(ときわ)総合病院の敷地内に入る頃には、朝からずっと曇っていた空からシャワーのような雨が降り出していた。

 なんてタイミングが悪いのだろう。

 駐輪場に屋根はあるが、風に乗って横向きに降る雨が服にどんどん染みを作っていく。

 蒼斗の顔に毛先が刺さらないように、肩が隠れる長さのベージュカラーに染めた髪をうしろでひとつに結ぶ。

 それから抱っこ紐を装着して、チャイルドシートから蒼斗を抱き上げた。

 私ひとりだったら多少濡れていいけれど、熱のある蒼斗を濡らすわけにはいかない。

 折り畳み傘を広げて母子手帳や健康保険証などが入ったバッグを持ち、病院の正面玄関へと急いだ。

 仕事柄身なりには気を遣っているので、今日もヒール七センチの靴を履いている。

 転ばないようにと気をつけていたのだが、蒼斗の身体に隠れて足元が見えず、迂闊にも段差らしきものに足を取られてしまった。

「うわっ」

 ずるっと滑らせた足はなんとか踏みとどまらせたが、反射的に蒼斗の後頭部を守ろうとして傘とバッグを取り落としてしまった。

「やっちゃった……」

 慌てて拾おうとしたところに、ひとりの男性が背後から風のごとくやって来た。彼は自分のさしていた傘を私の手に無理やり握らせる。

 いきなり手を触られて心臓がびくりと震え上がり、「ひゃっ」と小さな悲鳴を上げた。
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