ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 大きな病院なので飲食店も幾つか入っているが、一食分食べきれる自信がなかったのでコンビニエンスストアに足を運んだ。

 なるべく栄養がとれるものをと考えて、野菜ジュースと具がたくさん詰まったサンドイッチを手に取る。

 これくらいでいいか……と陳列棚の前で悩んでいると、背の高い男性が私のうしろを通り抜けようとしたので慌てて前に寄った。

「すみません」と言いながら私を見下ろした男性は不意に動きを止める。どうしたのだろうと斜めうしろに顔を向け、既視感を覚えてパチパチと瞬きをした。

 見たことある顔だけど、どこで会ったんだっけ……。

「金森さん?」

 名前を呼ばれて「あっ」と気づく。主治医の大槻先生だ。

 彼の顔はうろ覚えだったが、優しい口調が印象的だったので声は耳に残っていた。

「はい。大槻先生ですよね?」

「そうです」

 先生はうなずいて、ふっと表情を緩める。その顔がとても魅力的に見えて胸が小さく跳ね、さっと目を逸らした。

 なるほど。看護師たちが噂していたのが今ならわかる。

 毎日数え切れないほどの人間と会っているはずなのに、私の顔と名前を憶えているなんてすごい。こうして声をかけるところも気さくな人柄なのだろうと思わせる。
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