ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「それおいしいですよね。激辛好きなのでたまに食べます」

 担々麺と書かれたひとつのものを指差して言うと、大槻先生はキョトンとしたあと楽しげに笑う。

「じゃあ今日はこれにしようかな。引き留めて悪かったね」

 私は首を左右に振って、「お疲れさまです」と表情を緩めた。

 彼にとっては何気ない会話なのだろうけれど、母親が病院に運ばれてから誰とも世間話をしていなかった私にとっては、息抜きになるひとときだった。

 大槻先生も爽やかな笑顔を見せたあと足早にレジへと向かう。

 その広い背中を眺めながら思う。

 先生は母親の命を助けてからも働きっぱなしで、たくさんの命と向き合っている。

 それに比べて私は仕事を休み、なにも手つかずの時間を過ごしていた。母親が目覚めてからスムーズに動けるように、やるべきことはたくさんあるはずなのに。

 広い背中が店内から出て行くのを見届けてから、栄養ドリンクが陳列されている棚へ行き、大槻先生が購入していたのと同じものを一本手に取った。

 私も頑張ろう。
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