ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 
 母親が意識を取り戻さないまま五日が過ぎた。

 本音を言えばそばを片時も離れたくないのだが、ずっと仕事を休むわけにはいかず少しずつ元通りの生活に戻りつつある。

 ただし面会が十八時までなので、仕事は時短勤務にしてもらい毎日病室に通った。

 動かない手を握り、笑顔を作って話しかける。

「お母さんがベランダで育てていた紫陽花、咲いたよ。写真撮ったから起きたら見せるね」

 反応がないのが辛い。それでも表面には絶対に出さないようにして、今日の出来事を優しく、なるべく穏やかな口調で語る。

 もしかしたら聞こえているかもしれないと思わずにはいられないのだ。

 病室を出て廊下をとぼとぼ歩いていると、大槻先生と、その横に立つ女性医師とすれ違った。

 私がお見舞いに行く時間と、大槻先生が病棟に滞在する時間が被るのか、彼とは毎日顔を合わせている。

 笑顔で会釈をすると大槻先生は笑い返してくれたが、女性医師は眉ひとつ動かさなかった。

 忙しい人たちだからこういう反応が普通で、大槻先生のような態度の方が変わっているのかもしれない。
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