ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 気が動転している私に背を向けて、男性は手早く荷物をかき集める。

 ひと目見てすぐわかるくらいパリッとした上質なスーツに、雨の粒がどんどん積もっていく様子を困惑しながら眺めた。

 びっくりした……。変な人かと思ったけど、ただの親切な人みたい。

 嫌な反応を見せてしまったと、居たたまれない気持ちになりながらもどうすることもできず、ただ息を潜めて男性の背中を見守る。

 それからすぐに立ち上がった男性は私の前まで来て、落とし物をすっと差し出した。

 手渡された母子手帳を「ありがとうございます」と受け取る。

 百五十八センチの身長プラス七センチのヒールで目線は高い方なのに、それでも男性の首から上が見えない。

 背がとても高い人だな、と傘を少し後ろにそらせて男性の顔を見上げる。

 相手と視線が絡んだ瞬間、ドクンと心臓が不快な音を立てて鳴り、頭の中が真っ白になって声が出なかった。

 ファッション雑誌から飛び出てきたような美しい顔もまた驚きに満ちていて、ほんのりつり上がった綺麗な二重の瞳を大きく見開いている。

 ……どうして? 帰ってくるまで、まだ半年の猶予があるはずなのに。

 先に我に返った彼、大槻蒼(おおつきそう)は静かに目線を落とした。

 彼の視線の先にあるのが母子手帳だと気づき、バッグの中に急いでねじ込む。
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