ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「その子は、みちるの子供なんだよな?」

 確認するということは母子手帳の名前を見られてはいない? それともなにかに気づき探りを入れようとしている?

 表紙には保護者の欄に私の名前、金森(かなもり)みちると、息子の蒼斗の名前が記入してある。そして本来父親の名前が書かれる場所は空欄。

 目の前がくらんで血の気が引いていく感覚に襲われたが、しっかりしろ、と自身に言い聞かせて心を強く持ち直す。

「この子高熱なの。すぐにでも診察を受けたいからごめん」

 言ってすぐに足を踏み出したのだが、彼も後に続いて歩き出した。このまま逃がしてはくれないのだろうかと気が焦る。

「蒼さんはどこに?」

「小児科に用事がある」

「どうして?」

 正面玄関に到着して傘を畳みながら訝しい目を彼に向けた。

「どうしてって、ここに勤務する医師だからだろう」

 蒼さんはクスクスとおかしそうに笑う。

 そっか、本当に常盤総合病院に戻ってきたんだ……。

「でも、蒼さんは脳神経外科でしょ?」

 彼は三年前までここの脳神経外科医として勤務し、研修のためハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院、脳神経外科へ飛び立った。

 アメリカでの研修期間は三年半で、年明けの一月に帰国するはず。だけど今は夏真っ盛りの八月で、予定より半年も早い。

 彼には会わないだろうと思って常盤総合病院に来たのに……。
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