ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「先に行ってて。みちるもずっと抱っこして疲れているだろう」

「これくらい大丈夫だよ。ジュースも自分で買える」

「ジュースを見た蒼斗くんが、すぐに飲みたいと興奮するんじゃないか?」

 言われてみたらそうかもしれない。飲ませるには抱っこ紐から下ろさないといけないし、小児科の受付を済ませる前にそうなると面倒だ。

 そこでふと違和感を覚える。

 あれ? 蒼斗の名前って教えたっけ?

「どうした?」

 私に不審の眼差しを送られた蒼さんは首を傾げる。

「この子の名前……」

「ああ。さっき母子手帳に書いてあったから」

 ドッドッと心臓が大きく跳ねて呼吸がしづらい。

 サラリと言う彼の表情からは感情が読み取れないけれど、あれを見てピンと来ない方がおかしいだろう。

 だって、蒼斗の漢字は彼の名前からもらったものだから。

「いいから行っておいで」

 ふわりと包み込まれるような穏やかな顔で言われては従うしかない。というか、今ここで口を開くのが怖かった。

 こくりとうなずいて踵を返す。蒼さんに背を向けて二階へと続くエスカレーターに乗りながら、どう誤魔化そうかと必死に思考を巡らせた。
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