ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 蒼さんの口振りからして、悩んでいるわけではなく決定事項を伝えているのだと理解できた。

 だとするなら、ここで『行かないで』とごねても仕方ないし、そもそもそんなことを言える勇気もなければ、権利もない。それに私は医師である蒼さんを尊敬している。

「お母さんを助けてくれた蒼さんには心から感謝しているし、蒼さんにはもっと多くの命を救ってほしいと思ってる。……大変だろうけど、応援してるね」

 上手く笑えているか自信がなかったけれど、私の反応に蒼さんは安堵の息を漏らした。

 これが一番いい答えだったのだと思う。そう思うのだけれど……。

 心臓を何度も引っ掻かれたかのようにズキズキとした痛みが走り、鼓動はいつもの何倍もの速さで鳴っていて息苦しかった。

「みちる」

 呼ばれて、俯いていた顔をのそりと上げた。無理やり引き上げた口角が引きつる。

 あまりこの話を長引かせたくないな。すぐにボロが出てしまいそう。

「一緒にアメリカへ行かないか」

「……えっ」

 まさかそんなふうに言ってもらえるなんて微塵も期待していなかったので、胸に温かな液体がじわじわと広がっていく感じがした。

 蒼さんも私と離れたくないって思ってくれたんだ。よかった……。
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