ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 みちるにどちらも無理だと断言されて、かける言葉が見つからなかった。

 今思い出してもこたえる。しかし気丈に振る舞うのが得意なみちるの方が、なんでもない顔をしている裏で心に深い傷を負っていると推測したし、だからこそ自分のわがままにこれ以上付き合わせられないと身を引いた。

 毎日電話をする日課がぱたりと途絶え、アメリカに渡ってからも彼女の声が聞きたいと切望する日が何度もあった。

 自分が原因で彼女を振り回したからこそ、それは許されないという自我が働き、鎖で心をがんじがらめに縛りつけられているかのように身動きが取れなかった。

 みちるにもう一度会いたい。帰国して彼女に将来を約束した相手がいなかったら、今度こそ渡せなかった婚約指輪を受け取ってもらいたいと恋い焦がれていたのに。

 まさか自分の知らないところで、俺たちの愛の証が産まれていたなんて誰が想像できただろうか。

 三年前と変わらずヒールの高い靴で蒼斗を抱っこするみちるを見上げる。

 あの頃はまだ幼さが混じっていたが、今の彼女は誰がどう見ても魅力的な大人の女性だ。

 そんなかつての恋人を前にして焦燥感に駆られる。
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