ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 抱っこ紐からひょこっと飛び出た愛くるしい後頭部を眺めた。みちるのときと同様に、蒼斗の頭も撫でたい衝動に駆られて胸が苦しくなる。

 手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいるのに触れられない。

「……そうだよね。蒼斗のカッパはあるけど絶対に濡れるだろうし、その方がいいよね」

 自分に言い聞かせている口振りだった。

 弱みにつけ込む嫌な奴だと思われても構わない。大事なのはみちると蒼斗が安全に帰宅することだから。

 薬をもらって病院の外に出ると、予想していたよりひどい雨風が吹き荒れていた。

 俺がこの場に居合わせて心からよかったと思う。この雨ではどう頑張っても自転車を漕ぐなんて不可能だし、熱でぐったりしている蒼斗を抱っこしながら、みちるは雨が弱まるのをいつまででも待っていたはずだ。

 自転車置き場に車を横づけして、みちると蒼斗に後部座席に座ってもらってから自転車をうしろに載せる。

 運転席に乗り込んで雨で濡れた手をハンカチでさっと拭うと、すぐに車を発進させた。
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