ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
 エントランスの自動ドアが開いて傘を閉じたところで、みちるが不意に足を止めた。

 二重ドアの前、エントランスオートロックに背を向けた状態で佇む男性が、こちらに気づいて「こんにちは」と会釈をした。

 最初はマンションの住民だとなんの疑いも持たなかったのだが、みちるの厳しい眼差しを見る限りそうでもなさそうだ。

「……この方は?」

 みちるにそっと囁いたが返事はない。

「お連れの方がいらっしゃるようなので、また改めてうかがいますね」

 そうこうしているうちに、男性は営業スマイルと呼べる胡散臭い笑みを浮かべながらドアの向こうに消えていった。

 俺たちだけになると、みちるは、ふうーっと大きな息をつく。

「今の人は誰なんだ?」

 もう一度問うと、「溝口(みぞぐち)さん」とだけ返ってくる。

 誰だ、溝口って。

 悶々としつつ、みちるのあとに続いて居住エリアへ入り階段を上る。

 部屋は二階の二〇三号室。ここも三年前と変わらない。

 現在の居場所を確認できただけでもよかった。玄関のドアをみちるが開けたのを確認して数歩うしろに下がる。
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