ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「無理だと思ったら、すぐにここへ戻っていいから」

 逃げ道を示唆すると、不安げにしていた表情がさらに曇った。

 みちるの考えがやはりわからない。よかれと思っての発言だったのだが。

 ぎこちない空気が漂い沈黙が流れたとき、不意に「うっうっ」と蒼斗のすすり泣く声が隣の部屋から漏れた。

 目にもとまらぬ速さでみちるは立ち上がり、ドアをそうっと開いてなかの様子をうかがう。しばらくしてドアを静かに閉めて戻ってきた。

「病院の刺激が強かったから、変な夢を見たのかも。もう寝てたよ」

「そうか……長居してすまない。みちるも今のうちに休まないといけないよな」

「私より蒼さんだよ。病院に戻らないといけないんでしょ?」

 互いを気遣ったあと、顔を見合わせて小さな声で笑い合う。

「電話番号は変わっていないか?」

「変わってないよ。メモリーに残っているの?」

「消せるわけがないだろう」

 苦笑すると、みちるは複雑そうな顔をしてまた目を逸らす。

 昔はこうではなかった。相手の目をしっかりと見て話ができる人間だったので、とにかく俺とどう接していいのか距離感を掴めていないのだろう。
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