永遠の愛をプラチナに乗せて
翌日、私は、泣き腫らした目で出勤すると、早々に院長室を訪ねた。
私が勤めるのは、介護施設。
その施設の院長が私の1番上の上司だ。
といっても、決しておじいちゃんな訳ではない。
経営母体の病院の院長の息子さんで、現在35歳。
仕事ができて、収入もあり、肩書きもある。
その上、背も高く、綺麗に整った顔立ちは、まるで俳優さんのよう。
なぜ独身なのか、誰もが首をかしげる存在だ。
「おはようございます。実はお詫びと報告がありまして……」
私は、恐る恐る話題を切り出す。
「長谷川さん、何?」
白衣をまとった院長は、パソコンの画面から顔を上げて、笑顔を見せる。
けれど、私の顔を見るなり、眉をひそめた。
「実は、来月の結婚式なんですが、なくなりました。無理なお願いをしておきながら、申し訳ありません」
私は深々と頭を下げる。
早くに父を亡くした私は、いつも親切にしてくれる院長に、父親の代わりに一緒にバージンロードを歩いてくれるようお願いしていた。
「どういうこと?」
院長は、心配そうに私を見つめる。
「あの、それが……」
私は、事のあらましをざっと説明する。
「本当に申し訳ありません」
私は、深々と頭を下げた。
「いや、それは、長谷川さんは悪くないでしょ。頭を上げて」
院長はそう言うと、席を立ってぐるっと大きな机を迂回してこちらに歩いてくる。
「ま、とりあえず、ここに座って」
院長は、私をすぐ横の応接セットのソファに促すと、自らもその横に座った。
「で、俺にできる事は何かある?」
院長に?
わざわざしてもらうことなんて何もない。
「いえ、大丈夫です」
私は首を横に振る。
「弁護士が必要なら、こちらで手配することもできるよ。婚約不履行なんだから、慰謝料を請求することもできる」
あ、そうか。
そんなこと、考えてもみなかった。
でも……
「ありがとうございます。でも、長く引きずりたくはないので、もうこれで終わりにしたいと思います」
私は、素直にそう答えた。
それを見た院長は、
「そう?」
と私の顔を心配そうに覗き込む。
こんな間近で、院長の整った顔に覗き込まれると、目のやり場に困ってしまう。
私は、さりげなく目を逸らした。
けれど、院長は、気にすることなく続ける。
「仕事は大丈夫? 手続きとか挨拶回りで休みを増やす必要はない?」
この気遣いが嬉しい。
世の中、私を捨てる人ばかりじゃない、私を思いやって支えてくれる人がいるって分かるだけで、私ひとりが不幸だと思ってた昨夜が嘘のように救われる。
「大丈夫です。どちらかと言うと、気を紛らわせたいので、挙式予定だった日まで、休みなく働きたいです。家に1人でいると、良くないことばかり考えてしまうので……」
ここでの仕事は大変だけど、入所者の方との会話は、きっと私を元気にしてくれる。
「分かった。じゃあ、来月のシフトは、休みを全て後半にとれるように調整していいよ」
ほんとに?
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
私はお礼を言って、院長室を後にする。
やっぱり、院長はいい人。
私は改めて実感した。
私が勤めるのは、介護施設。
その施設の院長が私の1番上の上司だ。
といっても、決しておじいちゃんな訳ではない。
経営母体の病院の院長の息子さんで、現在35歳。
仕事ができて、収入もあり、肩書きもある。
その上、背も高く、綺麗に整った顔立ちは、まるで俳優さんのよう。
なぜ独身なのか、誰もが首をかしげる存在だ。
「おはようございます。実はお詫びと報告がありまして……」
私は、恐る恐る話題を切り出す。
「長谷川さん、何?」
白衣をまとった院長は、パソコンの画面から顔を上げて、笑顔を見せる。
けれど、私の顔を見るなり、眉をひそめた。
「実は、来月の結婚式なんですが、なくなりました。無理なお願いをしておきながら、申し訳ありません」
私は深々と頭を下げる。
早くに父を亡くした私は、いつも親切にしてくれる院長に、父親の代わりに一緒にバージンロードを歩いてくれるようお願いしていた。
「どういうこと?」
院長は、心配そうに私を見つめる。
「あの、それが……」
私は、事のあらましをざっと説明する。
「本当に申し訳ありません」
私は、深々と頭を下げた。
「いや、それは、長谷川さんは悪くないでしょ。頭を上げて」
院長はそう言うと、席を立ってぐるっと大きな机を迂回してこちらに歩いてくる。
「ま、とりあえず、ここに座って」
院長は、私をすぐ横の応接セットのソファに促すと、自らもその横に座った。
「で、俺にできる事は何かある?」
院長に?
わざわざしてもらうことなんて何もない。
「いえ、大丈夫です」
私は首を横に振る。
「弁護士が必要なら、こちらで手配することもできるよ。婚約不履行なんだから、慰謝料を請求することもできる」
あ、そうか。
そんなこと、考えてもみなかった。
でも……
「ありがとうございます。でも、長く引きずりたくはないので、もうこれで終わりにしたいと思います」
私は、素直にそう答えた。
それを見た院長は、
「そう?」
と私の顔を心配そうに覗き込む。
こんな間近で、院長の整った顔に覗き込まれると、目のやり場に困ってしまう。
私は、さりげなく目を逸らした。
けれど、院長は、気にすることなく続ける。
「仕事は大丈夫? 手続きとか挨拶回りで休みを増やす必要はない?」
この気遣いが嬉しい。
世の中、私を捨てる人ばかりじゃない、私を思いやって支えてくれる人がいるって分かるだけで、私ひとりが不幸だと思ってた昨夜が嘘のように救われる。
「大丈夫です。どちらかと言うと、気を紛らわせたいので、挙式予定だった日まで、休みなく働きたいです。家に1人でいると、良くないことばかり考えてしまうので……」
ここでの仕事は大変だけど、入所者の方との会話は、きっと私を元気にしてくれる。
「分かった。じゃあ、来月のシフトは、休みを全て後半にとれるように調整していいよ」
ほんとに?
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
私はお礼を言って、院長室を後にする。
やっぱり、院長はいい人。
私は改めて実感した。