永遠の愛をプラチナに乗せて
それから2週間後、施設の事務所に、私宛(わたしあて)の電話がかかってきた。

普段、仕事中に携帯を見ることのない私は、出勤すると、更衣室のロッカーに携帯を入れたままにする。

だから、緊急の連絡は事務所にかかってくるのだ。

「長谷川さん、チャペルグレースさんからお電話です」

えっ?
キャンセルしたはずの結婚式場から?

私は、心当たりがなくて首を傾げながらも、電話に出る。

「はい、長谷川です」

「チャペルグレースの鈴木です。お世話になっております」

担当者から型通りの挨拶がある。

キャンセルの手続きか何かかな?

そんなことを思いながら、私は返事をする。

「はい、お世話になりました」

「……あの、本日14時から最終打ち合わせの予定でしたが、お二人ともいらっしゃらないので、お電話させていただきました」

えっ?
最終打ち合わせって、どういうこと?
キャンセルしたんじゃ……

「えっと……」

「先程、ご新郎の木原様にお電話いたしましたところ、繋がらなくてですね、こちらにお電話させていただきました」

は?
あの人の電話が繋がるかどうかなんて知らないわよ。

私は、苛立ちを抑えきれなくて、語尾が多少きつくなる。

「キャンセルは彼に任せてあるので、私に連絡されても困ります」

私が言い放つと、今度は鈴木さんが驚く。

「えっ? キャンセル……ですか?」

まさか、キャンセルしてないの?

「木原から連絡いってませんか? 破談になったんです。キャンセル料その他は、全て彼が払うことになってます」

私がそう言うと、彼はさらに困ったように続ける。

「いえ、そのような連絡はいただいておりません。実は、こちらにかける前に、木原様の職場にもかけさせていただきましたが、1週間前に退職されたとのことで、連絡が取れなかったんです」

は?
子供が産まれるのに、仕事辞めたの!?

「実は、2週間ほど前に、彼とは別れまして、キャンセルの手続きとキャンセル料の支払いは彼がすることになってたんです」

私は説明する。

けれど……

「では、どちらにしても、キャンセルの手続きが必要ですので、一度こちらにお越しいただきたいのですが……」

えっ……

私の休みは2週間後までない。

「あの、私、今、休みがなくて……、どうしよう?」

私は途方にくれる。

「一度、上司と相談して、シフト調整してから、またご連絡させていただきます」

私はそう言って電話を切った。

とにかく、早くキャンセルしないと、キャンセル料がどんどん上がってしまう。

私は、介護士長に相談するけれど、みんな予定があって、簡単にはシフトを変更できない。


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