腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
翌日の金曜日は、朝から羞恥心と罪悪感に塗れていた。
何食わぬ顔で出社しているつもりだけど、頭の中は昨日の夜のことでいっぱいだ。玄兎さん……松川左右之助に散々抱かれた朝、チェックアウトでロビーにいる間はただぼんやりと周囲を眺めていた。

──

人もまばらなロビーには、カップルや家族連れが数組。それにビジネス目的なのか、大きな荷物を持ったスーツの男性が目についた。なぜか彼は、私たちの方を見ていた視線をスッと逸らす。それが不自然な気がして記憶に残ったけど──
『日向子さん』
いつの間にか、チェックアウトの手続きを済ませた左右之助さんがソファの隣に座る。何気なく差し出した繊細な手に翻弄された夜が無意識に思い出されて……それだけで赤面してしまう。
『連絡先を交換しませんか』
そんな私の胸中など知らぬげに、彼はスマホの画面を私に向けた。
『連絡先……ああ、はい』
また連絡をくれるつもりなんだろうか。言われるがままスマホを出し、メッセージアプリのIDを交換した。

──

正直、二度と連絡なんかないような気もしている。
一夜の過ちというべきなのか、一夜の幸せな思い出というべきなのか。夢から覚めた私は、一度家に戻ってどうにか出社時間に間に合わせた。
「うわああああ〜……」
「せ、先輩……?」
記憶にこびりついた自分の乱れっぷりに、唖然としてしまう。ああ見えて結構遊び慣れているのかもしれない。ベッドであんな風になったのは初めてだ。何度も真っ白な世界に押し上げられて、身体の上ではこれ以上ないほどの充溢感を味わった。
その相手が憧れの松川左右之助だなんて……
「和泉先輩、どうしたんですか?」
「な、なんでもない!」
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