腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
「どんなふうにプロポーズされたか聞いていいですか」
「え?」
探りを入れているようにも見えるし、単に好奇心でワクワクしているようにも見える。
「いや、気になってたんですよね。左右之助ってあんな感じじゃないですか。どうやって付き合ったのかとか、あんなのでも、ちゃんと好きとか愛してるとか言うのかなって」
「えーと……」
何も返事をしないわけにもかなくて、プロポーズと言える時のことを考えてみる。長命館の時に言われたのが最初だったけれど、私にとって大切なのは左右之助さんが病み上がりで言ってくれたあの言葉だった。
「……言いたくないです」
「えー」
不服そうな反応だったけど、これだけは本当に言いたくなかった。
「言われてないとか?」
「いえ、ちゃんと言っていただきました」
「だったらいいじゃない」
「大切な思い出なので、本当に」
知らず知らずのうちに、声に力がこもる。
桜枝さんが心底面白くなさそうな顔をした。
「デートはどんな感じだったんですか?」
「母の店で飲むことが多かったですけど」
多かったと言うほどは飲んでない……というか、美芳で飲んだのは一回こっきりだけど、一応馴れ初めがそういうことになっている。
「日向子さんには悪いけど、あんなにも急な話だったし、ちょっと疑ったりもしたんだよ」
「はあ」
この分だと、鴛桜師匠は桜枝さんには契約結婚だと言っていないのだろうか?
「ほら、だってこのタイミングだとすっごく両家にはメリット満載っていうか。そもそも柏屋は日向子さんの存在を知っていたって親父は言うけど、俺は知らなかったし」
「私もよく知りません」
「本当に?」
一応家族であっても他言無用ということにはなっているけど、私はお母さんにはペラペラ喋っている程度の他言無用だ。
もし鴛桜師匠が桜枝さんに契約結婚のことを言っていないのだとしたら──それは、図らずも彼が御曹司として信用されていないということなのでは?
そもそも桜枝さんは、本当に何をしにここに来たんだろう?含みのある笑顔に、もうそろそろ帰れと本格的に言おうとしたその時──
「なぜ桜枝がここに?」
ノックもなくリビングのドアが開いて、左右之助さんが姿を現した。
「あれ、もう稽古終わったわけ?」
壁の時計を見ると、まだ三味線のお稽古中のはず。ほんの一瞬眉を顰めたかと思うと、私の隣に素早く回った。
「どうして僕の留守中に我が家へ?」
「この間の合同稽古の時に忘れ物しちゃって」
「そうか」
疑わしいのを隠そうともせず、桜枝さんの荷物に目を走らせる。
「僕に連絡をくれれば届けさせたんだが」
「ごめんねー、新婚さんのお家に押しかけちゃって」
「今度から来るときは事前に連絡してくれ、僕に」
「そんなに心配しなくても」
左右之助さんの態度に促されるように、全員で玄関へと向かう。
「左右之助のこと、いろいろと聞かせてもらったよ」
「いろいろ、とは?」
「大したことは話してないですよ。どんなデートをしてるのかとか」
「後で僕にも聞かせてください」
「あれあれ、意外とヤキモチ焼き?」
左右之助さんがグッと私の肩を掴んで引き寄せる。
「そうだが」
「……っ」
驚いたのは、桜枝さんばかりではなかった。
ヤキモチかと聞かれて、左右之助さんが否定しないだなんて……口をパクパクさせていると、桜枝さんが桜枝さんは面白くなさそうに鼻白んだ。
「そんなキャラだったっけ?」
「くだらないことを言っている暇があるなら自主稽古したらどうだ」
左右之助さんの態度に、今度こそ望まれざる訪問者は玄関を出ていった。
「え?」
探りを入れているようにも見えるし、単に好奇心でワクワクしているようにも見える。
「いや、気になってたんですよね。左右之助ってあんな感じじゃないですか。どうやって付き合ったのかとか、あんなのでも、ちゃんと好きとか愛してるとか言うのかなって」
「えーと……」
何も返事をしないわけにもかなくて、プロポーズと言える時のことを考えてみる。長命館の時に言われたのが最初だったけれど、私にとって大切なのは左右之助さんが病み上がりで言ってくれたあの言葉だった。
「……言いたくないです」
「えー」
不服そうな反応だったけど、これだけは本当に言いたくなかった。
「言われてないとか?」
「いえ、ちゃんと言っていただきました」
「だったらいいじゃない」
「大切な思い出なので、本当に」
知らず知らずのうちに、声に力がこもる。
桜枝さんが心底面白くなさそうな顔をした。
「デートはどんな感じだったんですか?」
「母の店で飲むことが多かったですけど」
多かったと言うほどは飲んでない……というか、美芳で飲んだのは一回こっきりだけど、一応馴れ初めがそういうことになっている。
「日向子さんには悪いけど、あんなにも急な話だったし、ちょっと疑ったりもしたんだよ」
「はあ」
この分だと、鴛桜師匠は桜枝さんには契約結婚だと言っていないのだろうか?
「ほら、だってこのタイミングだとすっごく両家にはメリット満載っていうか。そもそも柏屋は日向子さんの存在を知っていたって親父は言うけど、俺は知らなかったし」
「私もよく知りません」
「本当に?」
一応家族であっても他言無用ということにはなっているけど、私はお母さんにはペラペラ喋っている程度の他言無用だ。
もし鴛桜師匠が桜枝さんに契約結婚のことを言っていないのだとしたら──それは、図らずも彼が御曹司として信用されていないということなのでは?
そもそも桜枝さんは、本当に何をしにここに来たんだろう?含みのある笑顔に、もうそろそろ帰れと本格的に言おうとしたその時──
「なぜ桜枝がここに?」
ノックもなくリビングのドアが開いて、左右之助さんが姿を現した。
「あれ、もう稽古終わったわけ?」
壁の時計を見ると、まだ三味線のお稽古中のはず。ほんの一瞬眉を顰めたかと思うと、私の隣に素早く回った。
「どうして僕の留守中に我が家へ?」
「この間の合同稽古の時に忘れ物しちゃって」
「そうか」
疑わしいのを隠そうともせず、桜枝さんの荷物に目を走らせる。
「僕に連絡をくれれば届けさせたんだが」
「ごめんねー、新婚さんのお家に押しかけちゃって」
「今度から来るときは事前に連絡してくれ、僕に」
「そんなに心配しなくても」
左右之助さんの態度に促されるように、全員で玄関へと向かう。
「左右之助のこと、いろいろと聞かせてもらったよ」
「いろいろ、とは?」
「大したことは話してないですよ。どんなデートをしてるのかとか」
「後で僕にも聞かせてください」
「あれあれ、意外とヤキモチ焼き?」
左右之助さんがグッと私の肩を掴んで引き寄せる。
「そうだが」
「……っ」
驚いたのは、桜枝さんばかりではなかった。
ヤキモチかと聞かれて、左右之助さんが否定しないだなんて……口をパクパクさせていると、桜枝さんが桜枝さんは面白くなさそうに鼻白んだ。
「そんなキャラだったっけ?」
「くだらないことを言っている暇があるなら自主稽古したらどうだ」
左右之助さんの態度に、今度こそ望まれざる訪問者は玄関を出ていった。