腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
「左右之助さんが運転するんですか?」
「七さんの方が安心ですか」
「そんなことはないです」
七さんと別のお稽古に行く時なんかに自分で運転するのは知っていたけど、実際に同乗するのは初めてだ。
「デートに運転手付きというのもね」
そう言われて助手席に乗り込み、またもや赤面してしまう。
そうだったよね……これってデートなんだもの。
「そのワンピース、お似合いです」
「ありがとうございます……」
お稽古の時は浴衣や和服を、家では比較的リラックスしたシャツ姿や部屋着姿を見てはいるけれど、よく考えればこんなふうに出かける日の左右之助さんの私服を見るのは初めてだった。今日はラフすぎないジャケットにスラックス。和服よりもスラリとした長身が際立って見える。
やっぱり、役者さんだけあって姿勢がいいんだよなあ。
「ところで」
「はい?……っ」
車が信号待ちで止まって、どきりとするような色っぽい視線が絡み合う。
「今日は本名でいいんじゃありませんか?」
「でも……店員さんに接客されたりしますよね」
「別に聞かれたって構わないでしょう、正真正銘の夫婦なんだから」
夫婦、という言葉が耳元で甘く響く。その後、滑るように走り出した車はどこかの店舗の駐車場に入り、左右之助……玄兎さんと手を繋いで店舗の中に入っていった。
連れていかれたのは呉服店ではなかったけれど、比較的価格帯が高めのブランド店だった。
「いらっしゃいませ、喜熨斗様。いつ奥様を連れてきてくださるかと、ずっとお持ちしておりましたのよ」
「ありがとう。興行の稽古が忙しくて、なかなかね」
顔見知りなのか、店員さんが玄関まで出迎えてくれる。そっか、そもそもこういう常連の店舗では本名なんだ。そういった日常的なことからして、いちいちよく分からない。それに──
「玄兎さん、私、着るものは要らないって……」
「誂えの着物はいらないとは言いましたが、小物ならいいと言ったでしょう」
ボソボソと聞こえないように言うけれど、玄兎さんは全く悪びれる様子はない。
「同じ理屈で、洋装ならなおのこと結構なはず」
「どんな屁理屈ですか」
「七さんの方が安心ですか」
「そんなことはないです」
七さんと別のお稽古に行く時なんかに自分で運転するのは知っていたけど、実際に同乗するのは初めてだ。
「デートに運転手付きというのもね」
そう言われて助手席に乗り込み、またもや赤面してしまう。
そうだったよね……これってデートなんだもの。
「そのワンピース、お似合いです」
「ありがとうございます……」
お稽古の時は浴衣や和服を、家では比較的リラックスしたシャツ姿や部屋着姿を見てはいるけれど、よく考えればこんなふうに出かける日の左右之助さんの私服を見るのは初めてだった。今日はラフすぎないジャケットにスラックス。和服よりもスラリとした長身が際立って見える。
やっぱり、役者さんだけあって姿勢がいいんだよなあ。
「ところで」
「はい?……っ」
車が信号待ちで止まって、どきりとするような色っぽい視線が絡み合う。
「今日は本名でいいんじゃありませんか?」
「でも……店員さんに接客されたりしますよね」
「別に聞かれたって構わないでしょう、正真正銘の夫婦なんだから」
夫婦、という言葉が耳元で甘く響く。その後、滑るように走り出した車はどこかの店舗の駐車場に入り、左右之助……玄兎さんと手を繋いで店舗の中に入っていった。
連れていかれたのは呉服店ではなかったけれど、比較的価格帯が高めのブランド店だった。
「いらっしゃいませ、喜熨斗様。いつ奥様を連れてきてくださるかと、ずっとお持ちしておりましたのよ」
「ありがとう。興行の稽古が忙しくて、なかなかね」
顔見知りなのか、店員さんが玄関まで出迎えてくれる。そっか、そもそもこういう常連の店舗では本名なんだ。そういった日常的なことからして、いちいちよく分からない。それに──
「玄兎さん、私、着るものは要らないって……」
「誂えの着物はいらないとは言いましたが、小物ならいいと言ったでしょう」
ボソボソと聞こえないように言うけれど、玄兎さんは全く悪びれる様子はない。
「同じ理屈で、洋装ならなおのこと結構なはず」
「どんな屁理屈ですか」