腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
微睡の中で、ぼんやりと目を開く。
「今、何時……」
起きあがろうとして、自分が一糸纏わぬ姿でベッドの中にいることに気づく。カーテンの隙間からまんまるの月が儚い光を放っているのが見えた。まだ、それほど夜深い時間ではないのかもしれない。
「目が覚めましたか」
「……っ」
背後から声をかけられて、首だけで振り返ると間近で玄兎さんが微笑んでいる。蕩けるような笑顔で瞳を覗き込まれて、一気に全身が熱くなった。
「まだ夜中ですよ。もう少し寝ていたらどうです」
上半身を起こしてサイドボードにある水差しから水を注ぎ、私に手渡してくれる。
「ありがとうございます……」
チラリと見えた背中には、無数の引っ掻き傷があった。自分では到底つけられない位置にあるそれは、彼の腕の中で乱れに乱れた私がつけたものだ。
「ご、ごめんなさい」
「何がです?」
「背中……」
「ああ、いえ」
玄兎さんが悪戯っぽく微笑む。
「すごく可愛かった」
「……っ!」
不意打ちで耳元で囁かれて、それだけで身体の奥が疼く。誤魔化すように水を飲むと、すぐにその手からグラスを取られた。
代わりにぎゅっと抱きしめられる。
「日向子さんの匂いは好きだな」
「そ、そんな」
「この手も好きだ。柔らかくて、小さくて、甘い」
「あ」
パクッと指先を口に含まれて、自分でも思っても見なかった甘い声が漏れる。
「そのくらいにしてください」
「なんで」
「恥ずかしくて死にそうです……」
このまま甘い言葉を囁かれたら、ドキドキして心臓が止まりそうだ。それに、ようやく収まっていた身体の熱がまた上がってしまう。
「死んだら困る。こんな風に愛し合えなくなる」
きゅっと指を絡めて手を握り合う。
再び吐息を重ねようとした、その時──チェストの上のスマホが着信を告げる。
「誰だ、こんな時に」
忌々しげに着信を見ると、微かな舌打ちが聞こえた。
舌打ち?……いま、玄兎さん、舌打ちした!?
「桜枝からでした」
「え、そうなんですか」
「過失を認めたそうですよ。僕と日向子さんにお詫びしたいそうです」
「そうですか……」
ホッとして、胸の支えが取れたような気持ちになる。
「良かったですね。早く返事をしてあげないと──」
「そのうち」
無慈悲な一言と共に、玄兎さんはスマホの電源を切って床に投げ捨てた。
「今は日向子さんのことしか考えたくない」
「あ」
シーツの衣擦れと共に、両手を纏めて頭上に縫い付けられる。
「早く、子供が欲しいな」
「え、どうして、今、そんな……あ」
余裕のない声と吐息が混ざり合って、私たちの部屋を満たしていく。
「御曹司なんて窮屈なだけだと思っていたけど──共に乗り越えてくれる人がいれば、悪くないって教えたい」
「玄兎さ……あぁっ」
出会った時の玄兎さんは素敵だったけど、どこか苦しそうだった。いつも何かに取り憑かれたような切迫感や身の不自由さで、自らを律して縛っていた。
「あの時の玄兎さんに……言ってあげたいな」
「ん?」
徐々に与えられる快楽に溺れながら、これだけは言っておきたかった。
「家も立場もなくなりはしないし、変わりはしないけど……今、私たちはこんなに幸せだって」
「愛してる」
「玄兎さ……ぁ」
それからは玄兎さんに愛されて、何も考えられずに彼だけに溺れていく。
私がベッドを出られたのは、次の日の夕方になってからだった。
「今、何時……」
起きあがろうとして、自分が一糸纏わぬ姿でベッドの中にいることに気づく。カーテンの隙間からまんまるの月が儚い光を放っているのが見えた。まだ、それほど夜深い時間ではないのかもしれない。
「目が覚めましたか」
「……っ」
背後から声をかけられて、首だけで振り返ると間近で玄兎さんが微笑んでいる。蕩けるような笑顔で瞳を覗き込まれて、一気に全身が熱くなった。
「まだ夜中ですよ。もう少し寝ていたらどうです」
上半身を起こしてサイドボードにある水差しから水を注ぎ、私に手渡してくれる。
「ありがとうございます……」
チラリと見えた背中には、無数の引っ掻き傷があった。自分では到底つけられない位置にあるそれは、彼の腕の中で乱れに乱れた私がつけたものだ。
「ご、ごめんなさい」
「何がです?」
「背中……」
「ああ、いえ」
玄兎さんが悪戯っぽく微笑む。
「すごく可愛かった」
「……っ!」
不意打ちで耳元で囁かれて、それだけで身体の奥が疼く。誤魔化すように水を飲むと、すぐにその手からグラスを取られた。
代わりにぎゅっと抱きしめられる。
「日向子さんの匂いは好きだな」
「そ、そんな」
「この手も好きだ。柔らかくて、小さくて、甘い」
「あ」
パクッと指先を口に含まれて、自分でも思っても見なかった甘い声が漏れる。
「そのくらいにしてください」
「なんで」
「恥ずかしくて死にそうです……」
このまま甘い言葉を囁かれたら、ドキドキして心臓が止まりそうだ。それに、ようやく収まっていた身体の熱がまた上がってしまう。
「死んだら困る。こんな風に愛し合えなくなる」
きゅっと指を絡めて手を握り合う。
再び吐息を重ねようとした、その時──チェストの上のスマホが着信を告げる。
「誰だ、こんな時に」
忌々しげに着信を見ると、微かな舌打ちが聞こえた。
舌打ち?……いま、玄兎さん、舌打ちした!?
「桜枝からでした」
「え、そうなんですか」
「過失を認めたそうですよ。僕と日向子さんにお詫びしたいそうです」
「そうですか……」
ホッとして、胸の支えが取れたような気持ちになる。
「良かったですね。早く返事をしてあげないと──」
「そのうち」
無慈悲な一言と共に、玄兎さんはスマホの電源を切って床に投げ捨てた。
「今は日向子さんのことしか考えたくない」
「あ」
シーツの衣擦れと共に、両手を纏めて頭上に縫い付けられる。
「早く、子供が欲しいな」
「え、どうして、今、そんな……あ」
余裕のない声と吐息が混ざり合って、私たちの部屋を満たしていく。
「御曹司なんて窮屈なだけだと思っていたけど──共に乗り越えてくれる人がいれば、悪くないって教えたい」
「玄兎さ……あぁっ」
出会った時の玄兎さんは素敵だったけど、どこか苦しそうだった。いつも何かに取り憑かれたような切迫感や身の不自由さで、自らを律して縛っていた。
「あの時の玄兎さんに……言ってあげたいな」
「ん?」
徐々に与えられる快楽に溺れながら、これだけは言っておきたかった。
「家も立場もなくなりはしないし、変わりはしないけど……今、私たちはこんなに幸せだって」
「愛してる」
「玄兎さ……ぁ」
それからは玄兎さんに愛されて、何も考えられずに彼だけに溺れていく。
私がベッドを出られたのは、次の日の夕方になってからだった。