腹黒梨園の御曹司は契約結婚の妻を溺愛したい
「そこまで喜んでくれるなら、チケットあげたかいがあったよ」
「本当に本当に、いつもありがとうございます!!」
しかも左右之助に席を用意してもらったり、帰りに送るように手配してもらったり……神対応を思い出すたびに涙が出る。好きになったのが左右之助でよかった。あの後、銀行のキャッシュカードやクレジットカード止めなきゃいけなくて大変だったけど、ちゃんと観劇した上にすぐ家に帰ることができたおかげで現金とお財布本体以外、さして被害はなかった。それもこれも左右之助のおかげだ。
あー、でも、あのお財布をなくしたことだけは……泣くに泣けない。なんたってお父さんの形見だし。すごく愛着があったんだけどな。
「こんばんは」
森山さんと飲んでいると、凛としたよく通る声と共にからりと店の戸口が開く音がした。
「おこしやす」
少しして、中居さんに案内されて若い男性が入ってくる。
「……失礼ですが、ご予約いただいておりましたやろか?」
見たことがないお客様なのか、お母さんから笑顔のままピリッとした空気が漂ってきた。
「落とし物を届けたらすぐ帰りますから」
「落とし物?」
歳は二十代後半くらいだろうか。スッと背筋が伸びた長身から、人を惹きつけるような静かなオーラが漂っている。ジーンズにジャケットというシンプルな格好だけど、身体に合ったラインが彼のスタイルの良さを引き立てていた。キャップとマスクと眼鏡で人相はよく分からないけど、端正な雰囲気が感じられる。
あれ、でもこの人ってどこかで見たような……
「こちら、貴女のものですよね?」
なぜか私にぴたりと視線を定めると、滑るように私の目の前に来た彼が差し出したのは濃いブラウンの二つ折りのお財布だ。
「私のお財布!?」
どうしてここにあるの?なんで彼が持ってるの?
「中を確認していただけますか?」
「はい……」
クレジットカードに銀行のキャッシュカード、保険証に社員証まで全部ある。再発行したカード類もあるけど、復活の手続きをすればそのまま使えるものもあったはずだ。
「現金以外は手付かずです」
「良かった」
ホッとしたように微笑むと、鋭い瞳が僅かに緩んだ。改めて、私は彼に頭を下げる。
「わざわざ届けてくださって、本当にありがとうございました」
「いえ」
「あの、どうしてこのお店が分かったんですか?」
「それは……付き人がこちらにお送りしたと聞きましたから」
「付き人?」
「本当に本当に、いつもありがとうございます!!」
しかも左右之助に席を用意してもらったり、帰りに送るように手配してもらったり……神対応を思い出すたびに涙が出る。好きになったのが左右之助でよかった。あの後、銀行のキャッシュカードやクレジットカード止めなきゃいけなくて大変だったけど、ちゃんと観劇した上にすぐ家に帰ることができたおかげで現金とお財布本体以外、さして被害はなかった。それもこれも左右之助のおかげだ。
あー、でも、あのお財布をなくしたことだけは……泣くに泣けない。なんたってお父さんの形見だし。すごく愛着があったんだけどな。
「こんばんは」
森山さんと飲んでいると、凛としたよく通る声と共にからりと店の戸口が開く音がした。
「おこしやす」
少しして、中居さんに案内されて若い男性が入ってくる。
「……失礼ですが、ご予約いただいておりましたやろか?」
見たことがないお客様なのか、お母さんから笑顔のままピリッとした空気が漂ってきた。
「落とし物を届けたらすぐ帰りますから」
「落とし物?」
歳は二十代後半くらいだろうか。スッと背筋が伸びた長身から、人を惹きつけるような静かなオーラが漂っている。ジーンズにジャケットというシンプルな格好だけど、身体に合ったラインが彼のスタイルの良さを引き立てていた。キャップとマスクと眼鏡で人相はよく分からないけど、端正な雰囲気が感じられる。
あれ、でもこの人ってどこかで見たような……
「こちら、貴女のものですよね?」
なぜか私にぴたりと視線を定めると、滑るように私の目の前に来た彼が差し出したのは濃いブラウンの二つ折りのお財布だ。
「私のお財布!?」
どうしてここにあるの?なんで彼が持ってるの?
「中を確認していただけますか?」
「はい……」
クレジットカードに銀行のキャッシュカード、保険証に社員証まで全部ある。再発行したカード類もあるけど、復活の手続きをすればそのまま使えるものもあったはずだ。
「現金以外は手付かずです」
「良かった」
ホッとしたように微笑むと、鋭い瞳が僅かに緩んだ。改めて、私は彼に頭を下げる。
「わざわざ届けてくださって、本当にありがとうございました」
「いえ」
「あの、どうしてこのお店が分かったんですか?」
「それは……付き人がこちらにお送りしたと聞きましたから」
「付き人?」