一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
お兄ちゃんは成田空港からリムジンバスに乗り実家へ戻ってくるなり私に抱きついてくる。

「由那!元気だったか?お兄ちゃんは最近メールのやり取りもできなくて寂しかったよ。やっと日本に帰ってこれたよ。由那、大きくなったなぁ」

お兄ちゃんにとって私はまだ中学生のまま。
1度帰国した以外は忙しくて帰国できておらず、テレビ電話していたが実際に会うのは久しぶり。

「お兄ちゃん、私もう25歳だよ。大きくなったって失礼だから。太ってるって言いたいの?」

「太ってないよ。由那は痩せすぎだ。これからは美味しいもの食べに連れていってやるからな」

「健介。お父さんやお母さんが食べさせてないとでもいうの?」

「いや、そんなことない……」

お兄ちゃんは私が可愛いばかりに時折地雷を踏む。

「由那ばかりじゃなく私たちもいるんだけど」

「ハハハ……ただいま。お土産あるよ」

「全く。どうして健介は由那にこんなに甘いのかしら」

両親も祖母も笑っている。
テレビ電話も私と話してばかりでお兄ちゃんは本物のシスコンだと思う。
クリスマスや誕生日も山ほどプレゼントが送られてきていた。

「お兄ちゃん、帰ってこれて良かったね。でもどうして原島総合病院にしたのよ!絶対私の近くに来ないでよね。目立ちたくないんだから」

「冷たいこと言うなよ。ランチとか一緒にできるし、帰りも一緒なら美味しいもの食べに行けるだろ」

「お母さんだって美味しいもの食べたいわよ!」

「なら母さんも付いてきたらいい」

そういうことじゃないのよ、お兄ちゃん。
付いて来ればいい、じゃなくてお母さんは最初から誘ってほしいのよ。

お兄ちゃんはきっと自分にばかり親が尽くしてくれたことに負目があるんだと思う。
でも私は決してお兄ちゃんを恨んだことはない。
おばあちゃんが付きっきりで面倒を見てくれたし、両親だって私のことを気にかけてくれることは分かっていた。
そして私自身、みんなにお兄ちゃんを褒められ少し鼻高々だった。もちろん比べられることは面白くはないけどお兄ちゃんが私を褒めてくれるたびに自信をくれたから私は腐ることなく成長してきたと思う。
お兄ちゃんだって努力無くして今があるわけでない。すごく勉強していたことも覚えてる。

久しぶりに家族揃っての夕食となりとても楽しい時間となった。
お兄ちゃんはゴールデンウィークで新居の準備を整えるつもりのよう。
マンションしか決まっておらず家具や雑貨を購入しに行くのを付き合うように頼まれた。
日本が久しぶりのお兄ちゃんにとっては電車に乗ることもままならないため私もこの休みは基本手伝うつもりでいる。
せっかくの連休だがちゃんとした約束は1つしかなく、あとはのんびり過ごそうと思っていたのでお兄ちゃんとの買い物でも出かけられるので楽しみになってきた。
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