一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
「久しぶり、由那ちゃん。来てくれてありがとう」

「おはようございます、冬哉さん。昨日はメッセージをありがとうございました」

ぎこちなく会話が始まろうとしていたがキキが冬哉さんの足に絡みつく。
ジョギングに行こうと誘っているようで、気が付いた冬哉さんが手を差し出してきた。

「由那ちゃん。ひとまずジョギングしてくるよ。その後少し話せたら嬉しいんだけど」

私は頷くとリードを冬哉さんの手に預けた。
冬哉さんは立ち上がると少しだけアキレス腱を伸ばした後、キキを連れて走り出した。

あれ?
そう言えばいつもならすでに走っているはず。
ベンチに座っているのを初めて見たかもしれない。
私たちを待っていてくれたってことだよね……。

冬哉さんと交代で私はベンチに腰掛けた。
7月も終わりに近づき朝6時台とはいえどかなり気温が上がってきている。
今日もいい天気になりそうだな、と思った。
そろそろ1周が終わるだろう頃合いを見計らっていつものようにドリンクを買って待っていた。

「お待たせ」

少し息を切らして帰ってきた冬哉さん。
ドリンクを渡しながら、キキにも水を与える。

「いつもありがとう。なぁ、すこしあっちの木陰に移動しない?陽が昇ってきたし、待っているのも暑かっただろう?」

「冬哉さんこそ走って暑くなったでしょう。木陰に行きましょうか」

少し林の方に移動すると気温が下がったように涼しく感じる。

「由那ちゃん。今日は来てくれて本当に良かった。あのあとずっと連絡したかったんだけど、いざとなるとなんて言ったらいいかわからなくてこんなに時間が経ってしまった。ごめん」

「そんな……私もなんとなく来ずらかったから冬哉さんから連絡をもらえて驚きました。でも
きっかけをくれてありがとうございます」

私たちは隣同士に座り、話しはじめた。
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