一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
「俺さ、由那ちゃんは可愛いと思うよ。だから由那ちゃんは俺と並べないとか言わないでほしいんだ。そもそも俺は自分の見た目を気にしたことはない。ただ、これだけは言いたいんだ。俺の見た目とか後ろに見えるものじゃなくて俺の人と成りを見て欲しい。だから友達としてこれからも付き合ってほしい。由那ちゃんと話すと素に戻れてすごく気が抜けるんだ。楽しいしホッとする。なんて言ったらいいか分からないんだけど、初めてな感覚なんだ」

冬哉さんの言葉にドキッとした。
私も、私も同じ。
なんて言ったらいいのか分からないけど冬哉さんといると素の自分でいられる。
なんだか穏やかな気持ちになり安心する。
だからこそ他の女性がみんな冬哉さんを振り返り見入るほどの視線を受け、安心感が揺らぐ感覚に陥り不安が煽られた。隣にいる私を見定められてるような気がして動揺した。

「冬哉さん。私もあなたと過ごすのが楽しかった。だから友達でいたい。周りからの視線に、私なんかが隣にいてはいけないと分かったけど、それでも冬哉さんの隣で話したいと思ってました。連絡をもらえなかったら私からは動くことができなかったのできっかけがもらえて良かったです。また友達になりましょう」

「ありがとう。友達に相談したら由那ちゃんの気持ちもわかると言われてさ。そいつはすごくいいやつでなんでも正直に言ってくれるんだ。俺の見た目で一歩引きたくなる気持ちがわかるって言われた」

冬哉さんは話し続ける。
私は彼の隣でただ聞いているだけ。

「迫ってくる奴や感情をおしつけてくるのはいても、引いてくるような人はいなかったからどうしたらいいか分からなかった。俺とでかけてくれるくらい気が合ったのに見た目で避けられるなんて悔しくて。でもそれが嬉しかった。見た目だけで選ばれた訳じゃないことが俺の中で心底嬉しかったんだ」

「冬哉さんの見た目はいいと思ってますよ。でもここでの冬哉さんはただの散歩友達で話が合う人なんです。だからあまり気にしたことがなかった。けど外に出たらやっぱり目立つし、人の目を引く人だったんだな、と実感してしまったんです」

「そうか」

「でもこうして話すとやっぱり気が合うというか、冬哉さんの言いたいことも全部伝わってきます。だからかな、なんだか一緒にいると穏やかな気持ちになれるんです」

冬哉さんは私の目を見て頷く。

「良かった。本当に良かった。この前出かけた後から会えなくなってどうしようかと思ってた。ここで朝、君と交わす少しだけの会話がなくなることが寂しくてさ」

「私もです。他のルートを散歩してたけどやっぱり冬哉さんのことが気になってました。今日は走りにきてるかな?とか考えたりしてました」

「由那ちゃん、今日休みならまたゆっくり話そうよ。ここだと暑くなってきてキキもかわいそうだ」

「気温が上がってきましたね」

「一度帰ってブランチしない?10時半に駅の東口のそばにあるパン屋で食べない?」

「あそこのフレンチトースト好き!行きます」

冬哉さんは立ち上がると、また後でといい帰って行った。
私もキキと家路を急いだ。

まるで告白し合うような時間だった。
友達宣言なのに冬哉さんの言葉にドキドキしてしまった。
顔が火照るのは日差しのせいだけではないと思った。
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