一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
翌日、キキのおトイレのため近場を散歩し、そのあと待ち合わせのいつもの公園へ向かった。

キキは冬哉さんがわかるのかここでも車を目がけて走り出しそうな勢いだった。

私はリードを引き宥めると落ち着いてくれるが、尻尾はグルングルン回り始める。
きっと私にも尻尾があったら回ってるかも、と思うとキキの姿と自分を重ね、なんだかおかしくなった。

「お待たせしました!」

「ようこそ、キキ。今日は楽しいところに行こうな」

そういうとキキを後部座席へ乗せてくれた。
私はせめてもの対策として持ってきたペットシーツを敷かせてもらうが、そんなこといいのにと言われる。
けどそうは行かない。
もしも、と思うと心配だからこれだけは敷かせて欲しいとおねがいした。

キキを乗せ車はスムーズに高速を走り出す。
この前お兄ちゃんとドッグランに行ったから多少の遠出は大丈夫なはず。
冬哉さんは気を利かせてくれ窓を少し開けてくれている。

1時間くらいの道のりで河原に着いた。
散歩している人くらいしかおらず気兼ねなくキキを遊ばせてあげられそう。

冬哉さんがリードを持ってくれ、私はバッグを持ちついて行く。

キキもいるからお昼に困ると思いお弁当を持ってきたので荷物がかさばる。
それに気がついた冬哉さんはさっと私の荷物を一つ持ってくれ、肩にかけ歩いて行ってしまった。

こういうさりげないことができる人って素敵だなぁ、とつくづく思った。
何も言わなくてもさっと荷物を取り上げてくれるなんて紳士だなぁ。

橋の下の涼しいところに陣取り遊び疲れたところでお昼ご飯にした。
冬哉さんはお昼を何か買って行こうと言ってくれたけど私が簡単でよければ用意すると言うと喜んでくれた。
あまりの喜びように期待値が高まり、かなり焦ったが、「由那ちゃんの作ってくれるものなら塩むすびでもいい」と言ってくれたのでホッとした。
さすがに塩むすびだけにはならないけどそんなに手の込んだものは作れない。
私は仕事に行く時のお弁当みたいになってしまったけど、なんとかいつもよりは彩り良く詰められたと思う。

レジャーシートに並んで座り、お弁当を手渡す。
私は冬哉さんのことが気になり自分のお弁当は蓋を開けることもできない。

「いただきます」

手を合わせ、蓋を開けると冬哉さんから喜びの声が上がった。

「唐揚げだ!」

おにぎり3個とおかずを入れて置いたがあっという間に食べてしまった。
もう?と思うくらいの速さだった。

「ごちそうさまでした」

「ごめんなさい、足りなかったですね」

「ん?そんなことないよ。お腹いっぱい。すごく美味しくかったよ。あ、ごめん。仕事柄早食いなんだ。由那ちゃんはゆっくりでいいよ」

あまりの速さに驚いたがお腹は満たされたらしく、ゴロンと横になる姿を見てホッとした。

私が食べていると寝息が聞こえてきた。

あ……

冬哉さん、疲れてるなぁ。
私に付き合って昨日も今日も出かけたからだよね。
暑いとはいっても橋の下の木陰だから風が吹くと寒いかもしれない。
私のストールをかけてあげたが起きる気配はない。

冬哉さんの寝顔はいつもよりもさらに若く見える。
私かボーッと川を見てのんびりしていると冬哉さんが急に起き上がった。

「ごめん!つい寝ちゃったよ」   

「いいんですよ。せっかくの夏休みです。のんびりしましょうよ。寒くなかったですか?」

「これありがとう。ちょうど良かったよ」

ストールをきちんとたたんでから返すところは冬哉さんらしい。

帰りもどこかで夕飯を、と思うが犬を連れての外出に慣れておらずどうしたらいいのかわからない。キキを車に置いて自分たちだけどこかで食べるのも居心地の悪さを感じる。
そのためファーストフードをドライブスルーして食べながら帰った。

「冬哉さんもファーストフードなんて食べるんですね」

「もちろん。昔より食べる機会は減ったから久しぶりだけど美味いな」

今日も楽しく1日過ごすことができた。
結局いつも駅で下ろしてもらうが今日は家まで送ってもらった。

「昨日も今日もありがとうございました。気をつけて」

「ありがとう。すごく楽しかったよ。またな」

そういうと車は走り出した。
角を曲がるまで見送ると聞きに話しかけた。

「冬哉さんっていい人だよね……もっとそばにいたいな」
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