一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
翌日、私はお弁当をリビングに置き忘れ、仕方なく食堂へ向かった。
お弁当が多いので滅多に行くことがないが病院の食堂は自然食を扱っていてとても評判がいい。
久しぶりの食堂は賑わっており、トレイを持ち先を探していると「こっち!」と手を振られた。
声のした方をふと見上げるとお兄ちゃんがいた。
「由那が食堂なんて珍しいな」
「作ったんだけど忘れちゃってさ」
そういうと空いているお兄ちゃんの隣に座った。
ふと正面を見るとあまりの驚きに声も出ず固まってしまった。
向こうも箸を持ったまま、目を見開き固まっていた。
「お!そういえばコイツは俺の同僚の原島冬哉先生だ。外科で一緒に働いてるんだけど同い年なんだ。イケメンだろ。でも由那はダメだ。冬哉は例のクマを買ってきてくれた人だから相手がいるぞ」
あまりの驚きに、お兄ちゃんの声が聞こえているけど返事を返せない。
「健介。俺、由那ちゃん知ってる……朝、ジョギングの時にキキの散歩で会ってるんだ」
「マジかよ!世間は狭いな」
お兄ちゃんと冬哉さんが話している。
そんな状況を見て私は冬哉さんが本当にドクターなんだと実感した。
いつもの走る格好とは別で紺のスクラブを着ている。胸には顔写真と名前の入ったカードが首から下がっていた。
本当にドクターなんだ。
カードには外科医 原島冬哉と見える。
私が何もいえずにいると冬哉さんのPHSがなった。
「はい、原島です。……わかりました。今戻ります」
そういうとトレイを持ち、立ち上がり私を見た。
「ごめん。病棟に呼ばれたから戻らないと。またな」
そう言い残し颯爽と食堂を後にした。
そんな後ろ姿を見ているとお兄ちゃんが不思議そうに話しかけてきた。
「由那、知り合いだったんだな」
「う、うん。キキが冬哉さんを気に入って、嗅ぎ分けてるみたいで、冬哉さんが来てる日は一緒にジョギングしてくれてるの。私だと流石に公園を走れないから……」
「そんなことが?すごい偶然だな」
「う、うん。本当に。でもドクターだとは知らなかった。ビックリしたよ」
「そうなのか?冬哉はこの病院の跡取りだよ。次男はまだ医大生らしいけどそのうち兄弟で働くことになるんだろうな」
「あ、跡取り?」
「そうだよ。原島総合病院の原島冬哉だよ」
目の前がクラクラする。
そんなすごい人だったなんて。
あの車のことも納得がいった。
普通いくら頑張ってもなかなか買えないようなもの。それをあの年齢で買えるなんてもっと不思議に思うべきだった。
お兄ちゃんのPHSも鳴り、すぐに立ち上がって「またな」といい食堂を後にしてしまった。
私は食事に手が伸びず、ほとんど食べられないまま残してしまった。
残すことは申し訳なく思うがどうしても喉を通らなかった。
午後病棟で仕事をしていても手につかず、小さなミスを連発する。
どうして教えてくれなかったんだろう。
でも私も仕事を伝えてなかったかもしれない。
前に聞かれた時に制服があることや事務だと言ったような気がするがここの病院だとは話さなかったかもしれない。
その時はそんなに大事なことだとは思わなかった。
冬哉さんは私服の仕事って言ってたから勝手にデザイナーとかベンチャー企業とか、IT系とかそういう職種かと思っていた。だから聞いてもわからないと思い深く聞きもしなかった。
どうしてあと少し踏み込んで聞かなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。
お弁当が多いので滅多に行くことがないが病院の食堂は自然食を扱っていてとても評判がいい。
久しぶりの食堂は賑わっており、トレイを持ち先を探していると「こっち!」と手を振られた。
声のした方をふと見上げるとお兄ちゃんがいた。
「由那が食堂なんて珍しいな」
「作ったんだけど忘れちゃってさ」
そういうと空いているお兄ちゃんの隣に座った。
ふと正面を見るとあまりの驚きに声も出ず固まってしまった。
向こうも箸を持ったまま、目を見開き固まっていた。
「お!そういえばコイツは俺の同僚の原島冬哉先生だ。外科で一緒に働いてるんだけど同い年なんだ。イケメンだろ。でも由那はダメだ。冬哉は例のクマを買ってきてくれた人だから相手がいるぞ」
あまりの驚きに、お兄ちゃんの声が聞こえているけど返事を返せない。
「健介。俺、由那ちゃん知ってる……朝、ジョギングの時にキキの散歩で会ってるんだ」
「マジかよ!世間は狭いな」
お兄ちゃんと冬哉さんが話している。
そんな状況を見て私は冬哉さんが本当にドクターなんだと実感した。
いつもの走る格好とは別で紺のスクラブを着ている。胸には顔写真と名前の入ったカードが首から下がっていた。
本当にドクターなんだ。
カードには外科医 原島冬哉と見える。
私が何もいえずにいると冬哉さんのPHSがなった。
「はい、原島です。……わかりました。今戻ります」
そういうとトレイを持ち、立ち上がり私を見た。
「ごめん。病棟に呼ばれたから戻らないと。またな」
そう言い残し颯爽と食堂を後にした。
そんな後ろ姿を見ているとお兄ちゃんが不思議そうに話しかけてきた。
「由那、知り合いだったんだな」
「う、うん。キキが冬哉さんを気に入って、嗅ぎ分けてるみたいで、冬哉さんが来てる日は一緒にジョギングしてくれてるの。私だと流石に公園を走れないから……」
「そんなことが?すごい偶然だな」
「う、うん。本当に。でもドクターだとは知らなかった。ビックリしたよ」
「そうなのか?冬哉はこの病院の跡取りだよ。次男はまだ医大生らしいけどそのうち兄弟で働くことになるんだろうな」
「あ、跡取り?」
「そうだよ。原島総合病院の原島冬哉だよ」
目の前がクラクラする。
そんなすごい人だったなんて。
あの車のことも納得がいった。
普通いくら頑張ってもなかなか買えないようなもの。それをあの年齢で買えるなんてもっと不思議に思うべきだった。
お兄ちゃんのPHSも鳴り、すぐに立ち上がって「またな」といい食堂を後にしてしまった。
私は食事に手が伸びず、ほとんど食べられないまま残してしまった。
残すことは申し訳なく思うがどうしても喉を通らなかった。
午後病棟で仕事をしていても手につかず、小さなミスを連発する。
どうして教えてくれなかったんだろう。
でも私も仕事を伝えてなかったかもしれない。
前に聞かれた時に制服があることや事務だと言ったような気がするがここの病院だとは話さなかったかもしれない。
その時はそんなに大事なことだとは思わなかった。
冬哉さんは私服の仕事って言ってたから勝手にデザイナーとかベンチャー企業とか、IT系とかそういう職種かと思っていた。だから聞いてもわからないと思い深く聞きもしなかった。
どうしてあと少し踏み込んで聞かなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。