一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
あれから数日、キキとまた川沿いのルートを散歩するようになっていた。

友達宣言されているんだから気にせず会うべきだと分かっている。

でも私の心は冬哉さんにこんなにも惹かれてしまった。
また友達だと言われ続けたらと思うだけで胸が苦しい。
冬哉さんにとって私はただの友達できっとそのうち素敵な人が隣に並ぶのだろう。
こんなに身近な人だと分かった今、彼の幸せな姿も目にしなければならないのだと気がついてしまった。

あんなハイスペックな人だったなんて……。
見た目だけでも私にとっては引け目を感じるくらい周囲の視線を集める人。
その上すごい肩書きがついてるなんて私の手の届く人では所詮なかったということだろう。

告白しなくてよかった。

今は考えるだけで胸が苦しいけど、時間が忘れさせてくれるはず。

私は川を眺めながら土手に座り込む。
キキは私の足に頭を乗せ覗き込んでいる。

「キキ、ごめんね。また冬哉さんに会えなくなっちゃった」

「どうして?」

その声に驚き、振り返ると冬哉さんがそこにいた。
いつもの走る格好とは違い私服だった。 

「と、冬哉さん!」

「どうして会えないの?」

私は驚き何もいえない、何も考えられなかった。

「どうして会えないの?俺が医者だから?」

「……」

「俺は由那ちゃんが医者だと知ったら離れると思って言えなかった。でも今は自分の口で話すべきだったと後悔してる。俺の肩書きを聞いてみんな飛びついてくるけど、由那ちゃんには素の自分を見て欲しかった」

「冬哉さんが医者だったなんて……」
  
「俺は仕事が医者なだけで、普通の男だよ。だから由那ちゃんには肩書きを気にせず接して欲しかった」

「それは私が肩書きを聞いて飛びつくと思ったからですか?」

「反対。由那ちゃんなら肩書き聞いたら離れていくと思ったから」

私は黙り込んでしまった。
私には冬哉さんの肩書きなんていらなかった。
普通に、一緒に過ごすのが楽しいだけで良かった。 

「それで、やっぱり俺の肩書きを聞いて離れていかれた。この数日、公園に行ってもいないからここだと思った」

前に公園に行かなくなった時に川沿いを散歩していたと伝えたことがあった。それを覚えていてくれたの?
私はうつむき、次の言葉が出てこない。 

「俺は由那ちゃんが好きだよ」

その言葉に驚いて私は顔をあげた。
すると冬哉さんと目が合ってしまう。

「由那ちゃんのことが友達以上に好きだ。だから付き合って欲しい」

その言葉に驚いたが、冬哉さんの目は真剣だった。

本気でそう思ってるの?
冬哉さんも私と同じ気持ちなの?

「由那ちゃんといるとすごく楽しいんだ。一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう。分かれるとまたすぐに会いたくなるんだ」

「私もです。でも、冬哉さんの隣にいたいなんて言えない」

「どうして?」

「冬哉さんは完璧な人です。病院で会った時、なんて白衣が似合うんだろうって思いました。自信に満ち溢れて、冬哉さんにはぴったりの職業だと思いました。見た目も性格も頭も良くて、何も欠けることがない人です。誰に聞いても冬哉さんを悪くいう人はいなかった、完璧な人です。そんな冬哉さんの隣には並べません。ごめんなさい」

それだけ伝えると、なんとか立ち上がりキキを連れ足早に家路へ向かった。
残してきた冬哉さんがどう思ったか分からないが振り返れなかった。
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