一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
家へ帰るとキキが玄関で座って待っていた。

「ただいま。キキー、今日も疲れたよ」

キキはいつも私の手を舐め、足にまとわりつく。
なんて可愛いんだろう。
この私を見上げる可愛いこの子を見るだけで1日の疲れが飛んでいってしまう。

「おばあちゃん、ただいま」

「おかえり。お疲れ様でした」

祖母はいつも「お疲れ様でした」と必ず言う。
昔ながらの人で、仕事から帰った人を労うことを決して忘れない。ついでにいえば、朝も必ず外まで送り出しにきてくれる。角を曲がるまでは家に入らず、振り返ると手を振ってくれている。これは私だけでなく両親がそれぞれ出かける時もそう。
私もいつか旦那さんや子供、孫をそんなふうにお見送りしたいなと思うけど……。

はぁ。
そんなのはいつになるんだろう。

前に付き合ったのは大学の頃。
もう4年も経つのに相手が見つからない。
そもそも振られたのが可愛さがないという理由。
可愛さって何?
見た目じゃなく性格だって言われた。
ますますわからない。
可愛さ?
世帯染みてるとも言われた。

4年経って今わかる。
要するに彼に甘えていなかったことだと。
それに加えておばあちゃんっ子の私の生まれ育った環境だろう。
でもおばあちゃんに育ててもらって私は有難いとさえ思っており、今となってはそんな彼氏はこっちからお断りだと思ってる。

でも可愛げがないと言われたことをどうしても気にしてしまい、一歩踏み出せずにいる。
看護師に誘われたように合コンに行ってみようかな…。

はぁ。
毎日こうして自転車で往復してたら出会いなんてないってことはこの3年でよくわかったもんね。

「由那ちゃん、今日はため息が多いわね。大丈夫?」

「うん。彼氏ってどうやったら出来るのかなぁって思ってさ」

「それは難しいわね。おばあちゃんには今どきのことは分からないから。おばあちゃんの時はお見合いとか適齢期になるとくるものだったけど今はないわね」

「そうだよね」

「由那ちゃんはまだ25歳よ。焦る年齢じゃないわよ。可愛いんだからお嫁さんに欲しいって言う人はすぐに現れるわよ」

おばあちゃんはこうして私に優しい言葉をくれる。
こんな優しいおばあちゃんにいつかひ孫を抱かせてあげたい。
私もおばあちゃんみたいなおばあちゃんになりたい。
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