一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
現実は待ってくれない。

私はよく眠れないままに翌朝を迎えた。

「キキ、お散歩行こう」

いつもと同じようにリードを持ち声をかけると待ってましたと言わんばかり。
尻尾を振るキキにリードをつけると玄関を出た。

「キキ。今日は公園だよ」

そういうとキキの顔が変わった。
嬉しそうに尻尾を回し始めた。
キキは冬哉さんに会うのが嬉しいんだね。
素直なキキを見ていると私も昨日素直になるって決めたことを思い出した。 

「よし!いこう」

だいぶ朝は涼しくなってきて真夏とは違った空気に変わってきた。

キキを連れ公園に着くと分かっていますと言わんばかりに噴水の方ではなく外周を回るジョギングコースへ一目散に向かっていく。
私1人なら躊躇うところをキキにリードで引っ張られ、早く!と促される。

林を抜けるといつものベンチのところに冬哉さんは立っていた。

私を見つけると近寄ってきた。

目が合うと何も言わずにギュッと抱きしめられた。
初めて感じる冬哉さんの体温。
しっかりとした身体に抱きしめられると何もかも飛んでしまった。

「ごめん。もう我慢できなかった。今朝話したいことはたくさんあったのに由那ちゃん見たら我慢できなかった。昨日もこうして話したかった」

耳元で話しかけられ、私の鼓動が高まる。
私も冬哉さんに応えるようにそっと背中に手を回した。
するとそれを感じたのか冬哉さんの腕はさらに強くなった。

私よりも背が高い冬哉さん。
彼の胸に顔をつけていると冬哉さんの脈も速くなっていることに気がついた。
私にドキドキしてくれているの?

私の頭を冬哉さんは抱え込むように抱きしめ「ごめん、人に見られてるわ」と恥ずかしそうに呟いた。

あ……

まだ時間は早いと言えどいつもジョギングしてる人は沢山いる。
私たちのように決まって同じ時間に来る人が多く顔馴染みになっている人もいる。
そう思うだけでドキドキしてきた。

「耳まで赤くなってきた。可愛いなぁ」

「ちょっ……そんなこと言わないでください」

「この顔、誰にも見せたくないな。このままどこかに連れ去りたいけど、さっきからキキさんが俺の足に絡みついてるんだ。彼女のリクエストで走ってくるよ」

そういうと冬哉さんは少し離れ、さっと額にキスをした。

あ……

冬哉さんは離れて、キキのリードを私の手から受け取るとキキに声をかけた。

「お待たせ、キキ」

頭を撫で、冬哉さんは軽くストレッチをすると「いってくる」と言い残し走り出した。 

はぁ……
冬哉さんに抱きしめられ、ドキドキしていた私はベンチにへたり込むように座った。
どうしよう。
冬哉さんが格好良すぎる。
抱きしめられちゃった。
額に、キスされちゃった。
彼の身体の温もりを知ってしまった。
恥ずかしかったけど、でも離れたら寂しくなった。
いつもよりもっと寂しかった。

そばにいたい。
触れたい。
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